アートとビジネスの越境:創造性と独自性で切り拓く米国アーティストの挑戦
アートとビジネスの垣根はない
アーティストとしての活動とビジネス活動はシームレスにつながっているものなのですが、ここからはビジネスサイドの活動もお話しします。私はシカゴで、建築デザイナーとして設計し、自分の建設会社で建築したバーやレストランを自分のホスピタリティ会社を通じて所有しております。私のビジネスアプローチは垂直統合であり、アートと同様に、自分の倫理観に合致するかどうかを重視しています。 この秋には、新たに3つのプロジェクトを開業する予定で、コロナ禍にもかかわらず立ち上げたピザ店が非常に人気を博し、現在3店舗目を拡大中です。また、シカゴとイスタンブールに拠点を持つコーヒー焙煎所とカフェの会社も経営しています。最近、シカゴのカフェでは、数十万冊の希少な本が保管されている元書籍販売業者の倉庫を確保し、その空間を本やリスニングバーが楽しめるカフェに改装しています。 ビジネスパーソンの職能とアーティストの職能は、目的とアプローチの違いによって大きく異なる。ビジネスパーソンは、具体的な目標達成を主軸に、論理的思考やデータ分析を駆使して効率を追求する一方、アーティストは感性と創造力を重視し、直感的な発想や独自の視点から作品を生み出すことが多い。両者のアプローチは異なる、と思い込んでいた私にとってケヴィンのアート活動とビジネス活動、を「さらりと」同時にこなす姿は、既存の固定観念をボロボロと崩していく。 ケヴィン:私にとってはアートとビジネスの垣根はなく、すべてが自然に結びつき発展しています。 10代の頃、私は室内壁をペイントする仕事をしていましたが、シカゴの富裕層たちは私の仕事を気に入り何度も仕事を依頼してくれました。やがて、同級生を雇い、小さなチームを結成しました。その後、「キッチンもリフォームできますか?」「リビングルームのデザインもお願いできますか?」と、徐々に依頼内容が膨らんでいきました。これが私の建築デザインと建設のキャリアの始まりでした。 時には、トロンプ・ルイユ(だまし絵)を依頼され、無味乾燥な壁に大理石を模倣するようなペインティングも行いました。この経験を通じて、子供の頃から描いていた絵が実際にはプロフェッショナルレベルであることに気づき、それがシカゴ美術館附属美術学校(SAIC :School of the Art Institute of Chicago)への全額奨学金を得るきっかけとなりました。当時はその重要性を理解しなかったのですが、後々の大きな転機と繋がります。 それ以来、私は建築プロジェクトとアート活動のバランスを取りながら活動しています。 フランク・ロイド・ライト建築のサウナのような高予算のプロジェクトに取り組む一方で、アーティストとして新しいテクノロジーの実践にも完全に自由を持って取り組むなど、二軸を持つことにより、建築思考な大規模なアートプロジェクトやアーティスト思考な新しい素材の建築が可能になり、両方の分野が互いに影響し合い、強化されています。 アーティストとして、私は物事の本質に興味をもっています。この姿勢はビジネスにおいてもそうです。例えば、コーヒー事業を立ち上げた際には、エチオピアに足を運び、シングルオリジンコーヒーについて学ぶ機会を得ることができました。その際に、訪れたエリアのあまりの財政的な腐敗の蔓延により人々がNokiaの携帯電話で一般貨幣ではなく、ブロックチェーン通貨取引をしていました。それは、2014年のことだったかと思います。ここでは現地の通貨よりも物々交換もしくは仮想通貨の方が遥かに価値をもつ現実を目の当たりにし、物事の価値観に対する新たな視点を得ました。そして仮想通貨の実用的な使用に触れ、むしろそのコンセプトについて興味をもつ機会となりました。 近年、仮想通貨に対する否定的な見方が増えている状況をアートで表現しようとしています。例えば、数年前にNFT NYCでデビューした「グミNFT」シリーズは、消費主義への風刺的なコメントであり、いくつかのバー事業のコンセプトとして取り入れたりもしてきました。 ビジネスでの出会いや洞察が、アーティストとしての本質を追求する欲求とアウトプットに自然に結びつくので、私にとってはビジネスもアートも垣根がありません。