「“知らぬが仏”で速い若者と、痛い思いをしてもビビらない男・マルケス」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.16】
2025年のチャンピオン争いで抜け出すのは誰?
元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。WEBヤングマシンで監修を務める「上毛GP新聞」。第16回は、バニャイアを取り巻くスペシャルなライダー×2人と、日本人ライダーの小椋藍選手について。 「地味すぎて凄さが伝わらないチャンピオンライダー、ペッコについて解説したい」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.15】
ペドロ・アコスタでも避けられなかった
前回からの続きです。 ライダーの備わったセンサーという観点からすると、今シーズン始まってすぐに大きな注目を集めたペドロ・アコスタが思いつく。シーズン序盤、並み居る強者たちを食う勢いを見せていた彼だが、ここへきてやや失速気味だ。 MotoGPにステップアップして最初のうちは、「知らぬが仏」と言いましょうか、あまり怖い思をしていないからこそ、勢いでイケてしまっていたのだろう。ところが今回のオーストリアGPでも、かなり怖い転び方をした。こうなると、ビビリセンサーが作動してしまい、前のような勢いを発揮できなくなる。 彼ほどのブレーキング巧者なら、やがてはビビリセンサーも克服して、そのうちまたトップ争いに返り咲くだろう。ただ、「ビビリセンサー発動」はライダーなら誰しもが通る道。「アコスタと言えども避けることはできなかったか」と、妙に感慨深いものがある(笑)。
そして「ビビリセンサー? いや、そんなの最初から搭載してないけど?」という希有な人が、マルク・マルケスである。この人は、やはりスペシャルだ。恐らくMotoGPライダーの中でももっとも怖い思い、痛い思いをしているはずなのに、ビビリミッターが作動する様子がまったく見られない。リミッター以前に、センサー自体が「ない」のだ。だから簡単に限界を突破してしまう。 オーストリアGPのスプリントレースでは、8周目に2番手になり、トップのバニャイアより速いペースでジワジワと迫った。残り5周、このまま行けば勝てるんじゃないか……というところで、転倒……。限界突破である。本人的には「絶対イケるはずだったのに、なんで?」というところだろう。 今回からミシュランタイヤの仕様が変わって、フロントタイヤが硬くなったとの情報も。マルケスに限らず転倒者が多かったのは、その影響も大きいだろう。それにしてもやすやすと限界を越えてしまうマルケス。ノー・ビビリセンサーのこの男、その要求に応えるマシンが手に入った時は、やはり底知れぬ強さを発揮しそうだ。それはドゥカティ・ファクトリー入りする来シーズンなのか、それとも今シーズン中なのか……。(※記事執筆は8月末)