古いお札はいつから“使えなくなる”? 「新紙幣発行=タンス預金のあぶり出し」説の真偽とは【弁護士解説】
旧紙幣が事実上「使えない」ケースとは
このように旧紙幣は、法律上はいつまでも通貨として通用する。 とはいえ、実際に市中で買い物や食事などをして、旧紙幣で支払いをしようとした場合、店によっては難色を示されるのではないか? 荒川弁護士:「買い物や食事をした場合、代金支払い義務が発生します。これは店側からみれば『金銭債権』にあたります。 金銭債権の支払いの方法については、民法402条1項本文で『各種の通貨で弁済をすることができる』と定められています。つまり、原則として旧紙幣で支払いをすることは自由です。 しかし、同条1項には『但し書き』があって、『特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは、この限りでない』と定められています。 つまり、店側で、新紙幣での支払いのみ受け付ける旨を貼り紙などで掲示していた場合には、それが契約の条件になっているので、店側は旧紙幣での支払いを拒むことができます。 なお、最近はキャッシュレス決済しか受け付けないことを明示する店も増えてきました。これも契約自由の原則から有効です」 では、そのような条件を店側が明示していなかった場合はどうなるだろうか。店側が旧紙幣での支払いを拒んだら、トラブルが発生することも予想されるが…。 荒川弁護士:「民法402条2項では『弁済期に強制通用の効力を失っているときは、債務者は、他の通貨で弁済をしなければならない』とあります。 前述のように、法律上、旧紙幣は『無制限の通用力』をもつので、旧紙幣での支払いは原則として有効です。店側は旧紙幣での支払いを受け入れなければなりません。 もし店側が拒絶した場合、客は『支払いとしてすべきことを完了した』ことになるので、債務不履行責任を負いません。 ただし、これは客側にとっても店側にとっても面倒なことになります。実際には、店側も客商売ですので、渋々ながらも結局は受け入れるしかないのではないでしょうか」
結局、「タンス預金のあぶり出し説」の真偽は?
このように、旧紙幣は法律上は無限の通用力をもつ。また、最寄りの銀行へ持っていけば、預金してから引き出すことによって事実上、新紙幣への換金もできる。 店でもある程度は使えるし、もし使えなかったとしてもいったん銀行で「換金」すれば問題は解決する。 しかし、一部でまことしやかに囁かれている説がある。「キャッシュレス化が進むなか、あえて国がコストをかけて新紙幣への改刷を行ったのは、高齢者のタンス預金をあぶり出すためではないか」というのだ。 この、いかにもな巷説の真偽のほどはどうか。 荒川弁護士:「ここまで説明してきたように、旧紙幣は今後も、多少の面倒はあるかもしれませんが、ちゃんと使えます。タンス預金だったとしても、銀行へ持っていけば問題ありません。 もし、支障があるとすれば、タンス預金になんらかの後ろめたい事情、つまり銀行に預けておくと法的責任を問われるおそれがある場合でしょう。たとえば、脱税のための所得隠しなどです。 大量の旧紙幣を換金する場合、なんらかの形で銀行を通す必要があります。窓口で預金または新紙幣への換金を行えばその履歴が残ります。ATMで少しずつ入金する方法はありますが、入金記録が積み重なれば『この入金の出どころは何?』ということになります。 その意味では、『タンス預金のあぶり出し』という機能はあるかもしれません。しかし、単なるタンス預金であれば、新紙幣への改刷による深刻な支障は生じないと言ってよいでしょう」 どうやら「タンス預金のあぶり出し」説はいまいち説得力に乏しく、都市伝説の域を出ないようである。ただし、荒川弁護士は、タンス預金は断じておすすめできないという。 荒川弁護士:「タンス預金は、火災や自然災害、盗難などに遭った場合のリスクが大きすぎます。 それらの被害に遭った場合、そのお金が実在したことの立証がきわめて難しいのです。もしタンス預金があれば、とりあえず一日も早く銀行に預けることをおすすめします」
弁護士JP編集部