「ここまで小説に打ち込む作家はいない。稀有な人だ」戦争への憎しみと悔恨を胸に、心揺さぶる人間ドラマを紡いだ山崎豊子先生の素顔
『大地の子』は、いま最も注目したい最良の教材
『大地の子』のタイトルだけで、もはや昔となった戦争孤児の悲劇的な物語だと受け取る方は多いかもしれません。でもそれは全くの誤解です。山崎先生は「現代の日本・現代の中国」を描こうとされた。この小説は、21世紀の現在起きている日中関係のさまざまな問題を理解する最良のテキストだと私は思います。たとえば第1章、かつて小説に描かれたことのない文化大革命の生々しい実態。あるいは日中共同プロジェクト「宝山製鉄(小説では宝華製鉄。2024年7月、日本製鉄は撤退した)」における、双方の不信。国交正常化から半世紀以上たったいまも、両国の関係は近づいたり離れたり。どうしてこのような行き違いが起きるのか。『大地の子』は大きな示唆を与えてくれるでしょう。 (『マンガ 大地の子』五巻収録の「担当デスクが見た作家・山崎豊子と『大地の子』」を改稿したものです。)
平尾 隆弘/文春文庫