〈れいわと国民民主の大躍進の意味〉「手取りを増やす」は可能なのか?両党の経済政策を検証する
働きたいのに働けない人を減らす
親の扶養に入っている18~22歳の若者は、年収103万円を超えると親の扶養からはずれ親は扶養控除を受けることができなくなる。その結果、平均的な収入の親で9万円ほど税金が増える。大和総研の山口茜氏によると、親の扶養に入るかどうかの「103万円の壁」を意識して、15~24歳(男性+未婚女性)では、70万人が就業調整を行っているという(山口茜「あえて年収を抑える559万人 就業を阻む「壁」の取り壊しと年金制度改革が必要」大和総研、2018年)。 豊かとは言えない家庭で大学に進学している若者ではこれが大きな問題となる。多くの親は学費を出しても生活費は自分で稼げと言う。月10万円のアルバイトをすると、11月、12月には親の手取りが減ることになってしまう。年末にかけて若い働き手が就業調整をしてしまうと、雇う方も年末の忙しい時に困る。 基礎控除を178万円に上げれば多くは解決する。働く時間が増えるのだから国内総生産(GDP)は増える。税収も増える。 アルバイト学生から余分に税金を取れる訳ではないが、雇う側からは取れる。つまり、所得税だけでは5.7兆円減るが、すべての税を考えれば、それほどは減らない訳だ。税金を取りたい財務省を含め、多くが歓迎する方策だ。他にも就労調整をしている人々はいる。
先述の山口氏によれば、既婚女性では、330万人が就業調整している。これは、非正規雇用者の約半数で、「103万円の壁」や「130万円の壁」を意識していることになる。 また、60歳以上では、112万人(うち、60~64歳は50万人)が就業調整をしている。特に60~64歳は、在職老齢年金制度により、一定の金額を超えると年金額が減額されることが就業を阻害しているという。
この際、すべての壁を取り払って欲しい
国民民主党には、税収の103万円の壁だけでなく、社会保険料の106万円の壁、130万円の壁も改革して欲しい。保険に入らなければならない限度額を178万円に引き上げれば良いだけだ。 壁に直面した人は働かなくなってしまうのだから、保険料を多く取れる訳ではない。厚生労働者は、不合理な制度を作って、すべての人が保険に入るべきだという美学のスローガンを叫んでいるだけだ。 178万円まで働いてもらえば、保険料は取れないが、税金は取れる。厚労省の美学主義者は心理的に損をするのかもしれないが、財務省は得をする(原田泰『日本人の賃金を上げる唯一の方法』80-83頁、PHP新書、2024年、参照)。 さらに、最低賃金の引き上げによって年収の壁に直面して人手不足を引き起こすという大問題も解決できる。 自民・公明で215議席なので過半数の233議席まで18議席足りない。無所属議員の追加公認もあるだろうが、無所属は12人しかいないので過半数にできない。28議席の国民はキャスティングボートを握っている。 この際、103万円の壁だけではなく、すべての壁を取り払って欲しい。103万円の壁で若者の心をつかんだが、さらに、働きたい専業主婦、高齢者の心をつかめば、立憲に代わる野党第一党の座が見えてくる。 正社員の女性に得はないが、損をする訳ではない。専業主婦と違って、収入が少ないのに自分で保険料を払わなくてはならないシングルマザーは恩恵がないかもしれないが、国民民主は「ひとり親家庭、特にシングルマザー家庭の養育費確保問題に取り組むとともに、児童扶養手当の水準を引き上げます」と政策各論インデックスに示している。 これがそれぞれできれば、「手取りを上げる」という公約を果たすことができる。有権者の投票に応える経済政策を進めてもらいたい。 (本稿の執筆では二松学舎大学の中垣陽子教授から貴重なアイデアをいただいたことを感謝する。)
原田 泰