過去一ダーク…『民王R』第5話から想起した実在の事件とは? ”泰山”の姿に背筋が寒くなったワケ。考察レビュー
遠藤憲一が主演を務めるドラマ『民王R』(テレビ朝日系)が放送中。本作は前作『民王』から9年ぶりの続編。池井戸潤の原作をインスパイアし、総理大臣が全国民を対象に、心と体が入れ替わる痛快政治エンターテインメントだ。今回は、第5話のレビューをお届けする。(文・田中稲)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】 【写真】過去一ダークな回で背筋が寒くなる…貴重な未公開写真はこちら。ドラマ『民王R』劇中カット一覧
過去一ダーク…。 青いドリンクと裏表のある大人「トー横キッズ問題」
『民王R』(テレビ朝日系/毎週火曜21時)の第5話が11月19日に放送された。 遠藤憲一演じる、政治家・武藤泰山が、毎回、一般庶民に入れ替わる。基本的には、ドタバタコメディータッチで描かれるが、9年前の『民王』とは違った切迫感や絶望感も漂う。あらゆる世代の、あらゆる問題点が可視化されるからだ。 第5話は、そういった意味でも過去一ダーク。「入れ替わりさん」はネットカフェに滞在していた14歳の中学生・萩原秋保(黒川想矢)だ。 トー横キッズの問題は様々なドラマで描かれてはいるが、今回は、市販の薬を大量に混ぜ、気持ちの悪い青色に変色したドリンクを飲むキッズたちが描かれる。いきなりの展開で驚いた。青く染まった舌、背中についた虐待の痣など、かなり衝撃的だ。 入れ替わった泰山は彼らの行動を見て、「わからん!」を連発する。そして「家に帰れ」「家に問題があるなら、しかるべき措置をとるべきだ。法律だってあるし」と言うのである。コメディーの皮に包まれてはいるが、世代の差だけでは済まない絶望的な温度差、政治家としてあまりにも無知な彼の態度に、ひやりと背中が寒くなる。
2022年に起きた「トー横のハウル事件」を彷彿…。
今回、もう1人ゾッとしたのが、「味方のような敵」の金髪の男性だ。 キッズたちに、コンビニのおやつを買って配り、居場所が必要だと語る。一見やさしく思慮深いその行動に泰山(体は秋保)は感動し、協力を頼んでしまうのだ。 しかし、その金髪男は少女たちへのわいせつ罪で逮捕される。秋保が慕っている女の子、ユキ(近藤華)も彼の被害者だったのだ。 この、相談できると思っていた大人に裏の顔がある、というエピソードは、2022年に起こった「トー横のハウル」事件を彷彿とさせる。トー横で(自称)ボランティアをし、少年少女の相談にも乗っていた「ハウル」と名乗る男性が、知り合った少女にみだらな行為をしたとして逮捕されたのだ。(ハウルは11月22日の初公判を前に東京拘置所で死亡)。 家に帰っても虐待され地獄。唯一集まれるトー横も、優しい仮面をかぶりながら、弱い彼らを狙う人がウロウロ。 一番その怖さを知っているストリートキッズを「有識者の方々」として政治討論会に招き意見を聞くシーンは、ドラマだからこそ叶う未来だ。 「家庭は乖離し、その隙間で子どもは今、死にかけている。目を背けるのはやめないか。わかりあえないはずはない。だって、彼らはかつてのあなたたちで、あなたたちは、いつかの彼らなのだから」。 秋保の体で政治家に問う、泰山のこの言葉は確かに感動的だ。ただ、泰山自体が一番わかっているはずなのだ。自分を含め、政治家たちは、目を背けていたのではなく、見ようともしていなかったことを。