朝鮮の砂金や樺太の漁業……「無から有」南の事業哲学 南俊二(中)
「私に学問がなければ10倍儲けただろう」
南はあるとき、心を許すジャーナリスト、三鬼陽之助に向かってこんなことを言って驚かした。 「三鬼君、私はなまじっか高等商業など出たばかりに、思うように金儲けができなかった。文字を知っているので新聞を読んだり、考えごとしたり、つまらぬ思惑をしたりするからだ。私に学問がなかったら、今の五倍、十倍も儲けたであろう」 嘆息交じりの述懐であったという。 南のあくなき「金欲」は子孫に美田を残そうというものでもなければ、冥土の旅の持参金作りでもない。あくまでも事業への投資意欲、その糧として金がほしかった。「金なくしては事業はできない。自己資本で新規事業の開拓をしたい」――。この一念で金を愛し、金をほしがったのだ。 =敬称略