ぐっすり眠ると腸内環境が改善する!?「腸と睡眠」の意外な関係について睡眠の研究者に話を聞いた
年末は仕事が忙しくなってストレスを抱えたり、また飲み会などが続いて胃腸が疲れる時期。そこで今回は「腸」にスポットをあて、腸と睡眠の関係について、西川株式会社(nishikawa)の研究機関「日本睡眠科学研究所」の安藤翠さんに話を伺った。最新研究についても興味深い話を聞くことができたので、要チェックだ。 【写真】2024年11月にnishikawaから発売されたばかりの[エアーリカバリー]スリープテック※ウェア レディース 。写真左はトップス、右はボトムス(各1万4300円、サイズM・L、ブラック)。メンズM・L・XL・XXLもあり ――日本睡眠科学研究所で「腸と睡眠」について研究をされたというのを拝見したのですが、そもそも「腸と睡眠」に注目して研究することになったきっかけを教えてください。 【安藤】もともと、「睡眠時間が足りてないとメタボになる」という(他の機関での)研究報告などはあったのですが、日本睡眠科学研究所で「睡眠の長さだけではなくて、睡眠の質が高いか低いかによっても変わるのでは」「睡眠の質が高いと肥満になりにくいのでは」という仮説を立てたことがきっかけなんです。 そして行った、日本睡眠科学研究所と同志社大学・アンチエイジングリサーチセンターの共同研究では、質の高い睡眠をとることで腸内環境が変化し、腸内のヤセ菌が増えるという結果が得られました。このことから、腸内細菌の変化を介して、肥満の改善や予防につながるという可能性が示されました(※1)。 ※1)研究詳細については、西川公式サイト内「日本睡眠科学研究所」の共同研究「nishikawaの4層特殊立体構造マットレス使用による睡眠の質・腸内フローラへ及ぼす効果」を参照ください。 ――睡眠の質が高いかどうかは、どうやって調べるのでしょうか? 【安藤】いろいろな測り方があるのですが、以前、筑波大学の柳沢正史教授と行った実験では、睡眠中の脳波を調べました。[エアーSX]を使って寝てもらい、睡眠中の脳波を調べたところ、深い眠りが分断されずにしっかりと安定してとれていることがわかりました(※2)。 ※2)研究詳細については、西川公式サイト内「日本睡眠科学研究所」の共同研究「nishikawaの4層特殊立体構造マットレスが及ぼす睡眠への影響を脳波解析で科学的に検証-最も深い眠り“徐波睡眠”が長く持続-」を参照ください。 ――先ほど「ヤセ菌」というワードが出てきましたが、「ヤセ菌」とはどういった菌なのでしょうか? 【安藤】「ヤセ菌」とは短鎖脂肪酸を生み出せる菌の総称で、例えば、バクテロイデス属細菌やビフィズス菌、ラクトバチルス属細菌などです。短鎖脂肪酸は、腸内環境を整えるので便秘が改善したり、脂肪分解力やエネルギー代謝を上げたりと、ダイエッターにうれしい物質なんです。 ――短鎖脂肪酸を増やすには、どうしたらいいのでしょう? 【安藤】まず、ヨーグルト(乳酸菌)や味噌(ビフィズス菌)、納豆(納豆菌)などの、ヤセ菌を含む食品を摂ることです。 さらに、(もともと自分の腸内にいる)ヤセ菌を増やすことも大切で、そのためにはヤセ菌のエサを食事から摂るのも大切です。エサとなる食品(プレバイオティクス)の主なものは、キャベツや豆類、トウモロコシ、海藻類や大麦、果物やキノコ類などです。つまり、一般的に腸内環境を良くするとされている「オリゴ糖」「不溶性食物繊維」「水溶性食物繊維」を含んでいる食材を摂取するといい、ということです。 それに加えてもう1つ大事なのが、先ほどお話したように、質の高い睡眠をとることです。さらに、それらは一時的ではダメで「ヤセ菌が多い状況を持続する」ということが大切です。 ――なるほど「持続」するという点では食事も大切ですが、「睡眠」は私たちが毎日行うことなので、続けやすいですよね。 【安藤】そうですね、特に今回の日本睡眠科学研究所と同志社大学・アンチエイジングリサーチセンターとの共同研究では、マットレスを[エアーSX]に変えて睡眠の質を上げただけなので、眠りの部分を工夫するだけでも、ヤセ菌を増やすことにつながると思います。 ――ちなみに、「質の高い睡眠」とは具体的にどういう状況なのでしょうか? 【安藤】先ほどお話したように、脳波で深い眠りが分断されずに安定している状態もそうなのですが、弊社としては“ぐっすり眠って、すっきりと目覚められる”のが「質の高い睡眠」だと考えています。チェックポイントは、寝つきがいいか、途中で起きないか、睡眠時間を保てているか、目覚めがいいか、日中しっかり動けるか、日中に過度に眠くならないか…など、さまざまです。 ――「睡眠時間が保てているか」という具体例がありましたが、何時間くらい眠るといいのでしょうか?また、睡眠に適した時間帯はありますか? 【安藤】個人差がありますが、睡眠時間は7~8時間くらいが望ましいと言われています。また時間帯の件については、以前は「ゴールデンタイム(22時~2時)に眠るといい」というのが一般的な説でしたが、近年は、人によって朝型か夜型かが遺伝子レベルで決まっていると言われています。なので、朝型か夜型かによって、それぞれ自分に合った時間帯に眠ると負担なく過ごせると思います。 朝型か夜型かは、国立精神・神経医療研究センターが公表している「MEQ-SA」というセルフチェックで知ることができます。西川の公式サイト内「眠りのレシピ」の「あなたは朝型、それとも夜型?パフォーマンス向上の秘訣は自分のタイプを知ること!」という記事内でリンクを貼って紹介しています(または、インターネットで「MEQ-SA」と検索しても出てきます)ので、ぜひやってみてください。 ――「質の高い睡眠」を実現するために、やったほうがいいことはありますか? 【安藤】先ほど「ぐっすり眠るのが質の高い睡眠」とお伝えしたのですが、自分が思っている「ぐっすり寝ている」と、客観的な判定では乖離があることが多いと言われています。なので、まずは自分の今の眠りの状態を正しく把握する、というのが「質の高い睡眠」への第一歩だと思います。 例えば、弊社には眠りを知れるツールとして「ねむりの相談所」があります。スリープマスターという資格を持ったスタッフが、眠りや寝具についてアドバイスをしてくれるところで(相談無料)、現在、全国で100カ所以上展開しています。 そこでは、ざっくばらんにお悩みをご相談いただいて、その場で解決できる場合もあるのですが、より細かくご自身の眠りを可視化したい方には「活動量計」というのを貸し出ししています。日中の活動量や寝姿勢などを計測する専用の機器で、1~2週間、装着して生活していただきます。そして、再来店の際に測定結果を解析し、データを可視化します(貸出料1100円、アドバイスは無料)。 ――自分の眠りを可視化してもらえるというのは、すごいサービスですね。ほかに、「質の高い睡眠」のためにやったほうがいいことはありますか? 【安藤】「質の高い睡眠」を得るための、理想的な生活習慣例があります。以下を、ぜひ参考にしてみてください。 【理想的な生活習慣例】 就寝2~3時間前:食事・飲酒・運動を終える 就寝1~2時間前:入浴(38~40度、20分程度)→パジャマに着替える 就寝30分前:遮光を徹底し、ストレッチや呼吸法、アロマの香りなどでリラックス 起床後:太陽の光を浴びる、ストレッチやアロマでリフレッシュ 昼過ぎ:12~15時に15~30分のお昼寝 日中:アクティブに過ごす(就寝時間の2~8時間前までに有酸素運動をすると良い) ――朝と夜にそれぞれ「アロマ」とありますが、それぞれおすすめの香りはありますか? 【安藤】朝は柑橘系、夜はラベンダーなどリラックス系がおすすめです。アロマオイルを垂らしたコットンや布を枕元に置くのもいいですが、アロマを使ったルームスプレーなどもおすすめです。 ――「パジャマに着替える」という項目もありましたが、やはり部屋着のままでなくパジャマに着替えたほうがいいのですか? 【安藤】部屋着とパジャマは、目的や作りが全然違うんです。パジャマは寝るために作られているので、締め付けにくく、素材が違ったり寝返りしやすかったりする構造になっています。最近話題の「リカバリーウェア」もおすすめです。 ――お昼寝については、どのようにするのがベストなのでしょうか? 【安藤】夜の眠りと目的が違い、深く眠り過ぎるとその後ぼーっとしてしまったり夜に眠れなくなるなどの弊害があるので、“適度に寝る”のが大事です。ベッドや布団で寝るようなフラットな姿勢ではなく、椅子に座るなど角度をつけた姿勢で寝る工夫が必要です。寝る前にコーヒーを飲むのも、効果的ですよ。 夜ちゃんと眠れている方でも眠気のリズムで昼に眠くなるのは自然なことなので、大人も昼寝はしたほうがパフォーマンスアップにつながります。ちなみに弊社では健康経営を推進していまして、そのなかでお昼寝も重視しており、社内に仮眠スペース「ちょっと寝ルーム」を設置しているんですよ。 ――寝室の環境という面ではどうでしょうか? 【安藤】明るさは、真っ暗~0.3ルクス(手元がぼんやり見える)くらいまでのオレンジ色の光、できれば吊り下げ灯よりフットライトのほうがベターです。室温は10~28度、湿度は50パーセント前後、音は無音~30デシベル(図書館くらいの静けさ)が理想的です。さらに、身体に合った寝具も大事ですね。 ■睡眠を改善すると、幸せホルモンも増加!? ――腸と睡眠の関係について伺ってきましたが、現在はどのような研究をされているのでしょうか?最新の研究結果などがあれば、教えてください。 【安藤】今月発表したばかりなのですが、日本睡眠科学研究所と、抗加齢医学研究の第一人者である米井嘉一先生(同志社大学 生命医科学部アンチエイジングリサーチセンター教授)との共同研究により、睡眠を改善することで幸せホルモンの1つと言われる「オキシトシン」が増加することがわかりました。つまり、質の高い睡眠ができると、幸せを感じやすくなったり、幸せの感受性が高まったりすることがわかった、ということです。 ――具体的な研究内容を教えてください。 【安藤】「オキシトシン」は、愛情ホルモン、絆ホルモンとも呼ばれ、他者への信頼感や共感力の向上、不安の緩和や心身リラックスなどの働きをしていると言われています。逆に、ストレスがあると分泌されにくくなるとも言われています。 今回は、軽度の睡眠障害を自覚する45歳~65歳の男女12名を対象に、日常使用している寝具と[エアーSX]を使用して各7日間就寝し、それぞれ5~7日目に睡眠の主観評価、心理検査、唾液中のオキシトシンの分泌量を検査しました。その結果、睡眠の質が改善し、特に女性において心身ストレスの軽減と就寝前の唾液中の「オキシトシン」の増加が見られたのです。 ――「オキシトシン」を増やすと、どんないいことがあるのでしょうか? 【安藤】人への信頼感や共感力が高まったり、コミュニケーションがうまく取りやすくなったり、不安や心配が和らいだり…など、ポジティブな効果が期待されます。 ――今後予定している研究テーマなどがあれば、教えてください。 【安藤】眠りの状態を知ったあとの解決方法を、より広く深く提案できるようにしていきたいですね。寝具だけでなく、お昼寝もそうですし、運動や食事など、トータルで対応できるようにしていきたく、それにはきちんとしたエビデンスが必要だと思いますので、(それらのことに関連した)研究を進めているところです。 今回の取材では、「腸と睡眠」の関係について詳しく聞いてみたが、安藤さんによると、質の高い睡眠には、ほかにもアンチエイジングや肌質改善、更年期症状・PMSの一部症状改善、糖尿病予防などさまざまな効果があるという。今一度「睡眠」を見直すことで、飲み過ぎ食べ過ぎで疲れた胃腸はもちろん、健康的な身体づくりへの第一歩となりそうだ。 ※本記事内で紹介した研究結果は個人差があり、すべての人に効果を保証するものではありません。 取材・文=矢野 凪紗