国民の関心事はもはやデフレ脱却ではなくインフレ、与党大敗の裏にある経済認識の大きなズレ
■ 与党の敗北に響いた物価高 今回の与党惨敗を受けて、2009年9月の自民党下野が引き合いに出されることは多い。 当時はリーマンショックを受けた超円高と、これに伴う国内景気の冷え込みが手伝って、時の政府・与党に厳しい審判が下ったと言われていた。しかし、実は前年には1バレル140ドル以上の原油価格急騰があり、数々の値上げが実施され、消費者物価指数(CPI)の上昇率でも+2%をにわかに超えるという事態に直面していた。それを踏まえての総選挙だったのである(図表(1))。 【図表(1)】 今回の総選挙も過去2年間にわたるCPI急騰を経て、物価高が争点化する中で行われている。国民が物価高に窮する状況で行われる総選挙は時の与党に厳しい審判がくだりやすい。これは洋の東西を問わない話だ。
■ 国民民主党は閣外から美味しいところを狙う? 基本的に国民民主党などの野党が連立政権入りする展開はなさそうであり、本稿執筆時点で具体的な政権枠組みは判然としていない。しかし、勝敗ラインと宣言されていた「自公過半数確保」が達成できなかった以上、本来的には石破首相を含めた執行部の責任問題は免れない。 この点、石破首相からは続投の意思が表明されているものの、同時に野党の一部と連携する意思も示唆されている。 ただ、この構図において野党は美味しいところだけを得ようとするだろう。例えば国民民主党は拡張的な財政・金融政策を謳っている。真っ当に考えれば、円安は進むだろう。引き続きインフレを輸入する状況が続き、名目賃金は押し上げられるだろうが、実質賃金は恐らく低迷するに違いない。 国民民主党からすれば名目賃金の上昇を喧伝した上で、「インフレを放置して実質賃金を抑制した」として自公政権を批判するのではないか。なんと言っても国民民主党は「手取りを増やす」というキラーフレーズがある。「名目賃金上昇に尽くしたが、自公政権の失政で力及ばず」という姿勢は世論の支持を得そうだ。 どこの国でも同じだが、与党を追い詰めた野党が与党にパーシャル連合という形で手を貸すことで政権運営に関与することは確かに可能であるものの、結果として野党としての存在意義を喪失するというケースは多い。 大連立に手を貸したことでドイツの社会民主党(SPD)は長年、メルケル前首相擁するキリスト教民主同盟(CDU)の日陰に置かれ、存在意義が問われる状況に追い込まれていた。与党への安易な協力は野党の騰勢失速に直結しかねず、簡単には飲めない。閣外から美味しいところだけを狙うのが賢明な戦略になりやすい。