スマイリーキクチさんが語る、SNSのコミュニケーションで最も大切なこと
「スマイリーキクチ 人殺し ぶっ殺してやる」――タレントのスマイリーキクチさんは、10年以上にわたって、インターネット上で誹謗中傷され、当時の仕事をすべて失い、人生が一変した。現在、そんなスマイリーさんは、笑顔を絶やすことなく、メディアリテラシーの大切さやSNSのマナーを世の中に伝え続けている。コミュニケーションの齟齬が生じがちな人間関係において大切なものは何か? コロナ禍で学生時代を過ごしたフレッシャーズたちに、上司や先輩社員はどう接すればよいか? 姿の見えない相手と対峙した経験があるからこそ語れる“ネット社会の怖さ”、スマイリーさんならではの “他者を尊重する思い”に、「HRオンライン」が耳を澄ました。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治) 【この記事の画像を見る】 *スマイリーキクチさんは、 新卒内定者フォローツール「フレッシャーズ・コース2025」(ダイヤモンド社)の「The Life」(著名人インタビュー)コーナーに出演している。当インタビューの一部分は、同コーナーから転用 ● “正しいと思うことを疑う”姿勢が誰にでも必要 韓国ドラマ「冬のソナタ」の大ヒットが社会現象となった2000年代初頭――主人公 “ヨン様”の顔マネを披露したタレント、スマイリーキクチさんの人生は、インターネット上に現われた“ひとつのデマ”で一変した。 スマイリー ある日突然、「スマイリーキクチが犯人だ!」と、1989年に起きた“女子高生コンクリート詰め殺人事件”の加害者にされてしまったのです。犯人グループと同世代、事件が起きた地域の出身という共通点だけで、“スマイリーキクチ=犯人の一人”と断定する書き込みがネットの掲示板でなされ、それを鵜呑みにした人たちから、誹謗中傷や殺害予告が相次ぐようになったのです。 スマイリーキクチ タレント / 一般社団法人インターネット・ヒューマンライツ協会 代表 1972年、東京都出身。2000年代初頭、「凶悪事件の犯人の一人」という風評被害をインタ―ネット上で受けて、当時の仕事をすべて失い、人生が一変した。現在は、そうした経験をもとに、ネット犯罪の恐怖や被害を防ぐ⽅法について、全国の自治体・企業・学校法人などを対象に講演活動を行っている。また、2020年に、一般社団法人インターネット・ヒューマンライツ協会を立ち上げ、代表に就任。著書に『突然、僕は殺⼈犯にされた』(⽵書房刊)などがある。25卒(2025年3月卒業予定者)向けのメディア「フレッシャーズ・コース2025」の「The Life」コーナーにもインタビュー出演している。 誹謗中傷との闘いは10年以上も続き、その体験をもとに、スマイリーさんは、書籍『突然、僕は殺人犯にされた』を執筆。以降、全国の学校や自治体、企業から、インターネットやSNSのコミュニケーションをテーマにした講演依頼をひっきりなしに受けるようになった。 スマイリー 小学生の子どもたちに「正義感とはどんな意味ですか?」と尋ねると、「弱い人を助ける」という答えが返ってきます。だけど、年齢が上がるにつれて、「正義感」の意味に「悪い人を特定する」「懲(こ)らしめる」といったものが出てきます。僕を誹謗中傷していた人たちは、「スマイリーキクチは殺人犯だから懲らしめたかった」と告白しました。「正義感」ゆえの行動だったのです。それから20年以上経ちますが、ネットでの誹謗中傷がなくなることはなく、今夏のパリ五輪でも、メダル獲得を逃した選手への中傷がなされて、大きな問題になりました。自分の意に反した人や悪いことをする人がいたら、非難したり、懲らしめたくなったりする気持ちはわかりますが、はたして、見聞きした情報が正しいのか、自分が起こそうとしている行動は正しいのか――その判断力を持たないと、人はいつでも加害者になり、言葉の暴力で誰かを傷つけてしまいます。加害者にならないためには、“正しいと思うことを疑う”姿勢が必要です。 コロナ禍では例年以上の講演依頼がありました。ウイルスという得体のしれない恐怖に、みんなのフラトスレーションが溜まり、「○○で感染者が出た」というふうに、場所と人物の特定からの偏見や中傷が目立ちました。そうした社会状況で、僕は、誹謗中傷された被害者を救うこと、そして、SNSで誰かをついつい攻撃しまう人自身の相談窓口が必要だと考え、2020年に、一般社団法人インターネット・ヒューマンライツ協会を設立しました。被害者を減らすために、まず、加害者をつくらないことが重要です。