岸田首相の強まる退陣論、打つ手乏しく 内閣改造もろ刃の剣 麻生・茂木氏と距離広がる〔深層探訪〕
通常国会が事実上閉幕し、政局の焦点は自民党総裁選を9月に控えた岸田文雄首相(党総裁)の次の一手に移った。再選に意欲をにじませ、党内の退陣論をはねのけようと内閣改造・党役員人事で局面打開を狙う案も浮上する。ただ、派閥裏金事件をきっかけに、世論や党内の逆風は強まったまま。衆院解散権が事実上封じられた首相にとって人事は「もろ刃の剣」となる。 【ひと目でわかる】岸田内閣の支持率推移 ◇異例の党内行脚 「気力は十分みなぎっている。決して疲れているなどと言うつもりは全くない」。21日の記者会見で、「非常に疲れていると感じる」と指摘された首相はこう反論した。ただ、これに先立ち国会を低姿勢で行き来する首相には「疲れ」の表情が見えた。 首相はこの日午前の自民参院議員総会に突然出席。政治資金規正法の改正に関し、「皆さんの尽力で厳しい国会を乗り切ることができた」と謝意を示した。首相が参院総会に出席するのは異例だ。午後には党代議士会で「大きな困難、ご迷惑をおかけし、おわびする」と語った。 「党内行脚」に駆り立てたのは、規正法改正を巡る迷走で広がる「岸田離れ」への懸念だ。20日に衆院当選4回の議員が首相の代議士会出席を要求。16日には中堅議員が首相退陣の必要性に言及した。 この2人はそれぞれ茂木派と麻生派に所属。茂木敏充幹事長は総裁選出馬への意欲を隠さず、麻生太郎副総裁は規正法改正で首相との溝がさらに広がった。党内で相次ぐ首相批判に、岸田派幹部は「裏で言わせている人がいる」と警戒。首相と麻生、茂木両氏を軸にした「三頭政治」は事実上解消したとの見方が強まっている。 ◇「朝令暮改」「協力ここまで」 複数の首相周辺は難局打破に向け、内閣改造・党役員人事に踏み切るべきだと進言する。党ベテランも、石破茂元幹事長らを念頭に「国民的人気の高い有力者を取り込み、麻生、茂木両氏は交代させるべきだ」と指摘した。 現在の岸田内閣は「ポスト岸田」を目指す高市早苗経済安全保障担当相や河野太郎デジタル相も抱える「総主流派」体制だ。人事に踏み切れば、「高市氏らが政権から堂々と距離を置くきっかけになる」(政府関係者)懸念も。顔触れの刷新が、首相の衆院解散・総選挙に向けた布石との印象を広げ、「『岸田降ろし』の引き金を引くだけ」(自民筋)との見方もある。 政策面でも右往左往している。首相は21日の会見で、5月にいったん終了した電気・ガス料金の支援策を再開する方針を表明。物価高対策を重視する姿勢をアピールしたが、政府内からは「朝令暮改だ」(経済官庁幹部)との批判が上がった。 自民幹部は「政権は行き詰まっている。協力はここまでだ」と言い切った。 ◇立民も代表交代論 「次期総選挙に向け政権(交代の)準備を急ぎ、いつでも戦える状況をつくる」。立憲民主党の泉健太代表は21日の会見でこう述べ、早期の衆院解散・総選挙に向けた準備を急ぐ考えを示した。ただ、泉氏の代表任期満了も9月に迫り、党内では交代論が浮上している。 立民内には、落ち目の岸田政権に解散する体力はないとの見方が多く、関心は代表選に集まりつつある。泉氏は4月の衆院3補欠選挙での全勝などを追い風に続投を目指しているが、党内基盤は弱い。党関係者は「本当に推薦人が集まるのか」と冷ややかだ。 党内では「ポスト泉」に枝野幸男前代表や野田佳彦元首相を推す声がある。両氏が7月7日投開票の東京都知事選で蓮舫前参院議員の応援に入る様子に、若手議員は「代表選を意識している」と語った。 ただ、ベテランの「返り咲き」は新味を欠く。野田氏は旧民主党の政権転落時に首相を務めた「戦犯」と言われ、枝野氏も前回衆院選の敗北で引責辞任している。「ぎりぎりまで党内情勢を見極めることになる」。立民幹部はこう話した。