日産、英国のゼロ・エミッション義務化に「早急」な対応求める 政府目標は「時代遅れ」と批判
英国政府と協議 政策の見直しを呼びかけ
日産自動車は英国政府に対し、排出ガスを出さないゼロ・エミッション車(ZEV)義務化について、将来の投資が危うくなるとして早急な規制変更を求めた。 【写真】欧州製EVに十分対抗できる電動クロスオーバー【日産アリア(英国仕様)を写真で見る】 (26枚) 日産は11月20日(現地時間)、英国のルイーズ・ヘイグ運輸相およびジョナサン・レイノルズ・ビジネス貿易相と会談し、EVへの移行について話し合った。この協議には数多くの自動車メーカーが参加し、BMW、フォード、ステランティス、テスラ、トヨタ、フォルクスワーゲンのほか、英国自動車製造販売者協会(SMMT)、充電業界団体チャージUK、英国自動車リース・レンタル協会(BVRLA)の代表者も出席した。 協議後の声明で政府は、純エンジン車の段階的廃止の予定時期を2030年のまま維持することを確認したが(一部のハイブリッド車は2035年まで許可される)、ZEV義務化に関するメーカーの懸念には触れず、将来的な修正の可能性を残した。 英国のZEV義務化政策では、メーカーは毎年、新車販売におけるゼロ・エミッション車の割合を増やしていく必要があり、目標を達成できなかったメーカーには厳しい罰則が科される。多くの免除措置があり、クレジットのプールや取引も可能だが、原則として今年は新車販売の22%をゼロ・エミッション車にしなければならない。来年には26%に上昇し、2030年にはさらに80%まで引き上げられる。 日産の現地部門は声明を発表し、このZEV義務化をすぐに見直すよう呼びかけた。EVに対する消費者需要の鈍化により、今年のEV販売台数が市場全体の18.5%にしか満たないというSMMTの予測を引用し、メーカーが厳しい罰則を受ける可能性を指摘している。 日産は英国政府の目標を「時代遅れ」と表現し、メーカーに残された選択肢の1つはEV専門ブランドからクレジットを購入することだが、そのようなブランドは英国で生産していないため、「英国の自動車産業は国内への投資を犠牲にして、事実上他国のEV部門に補助金を出すことになる」と主張した。 引き続き製品ラインナップの電動化を進め、現在サンダーランド工場で3車種のEVの生産準備を進めているとしながらも、英国政府にZEV義務化への早急な対応を呼びかけた。具体的には、クレジットを「借りる」ことの柔軟性を高めること、2024年と2025年の2年間は罰金を課さない監視期間を設けることを求めている。 日産の欧州責任者ギョーム・カルティエ氏は、次のように述べている。 「日産は英国のZEV義務化の趣旨を一貫して支持し、2010年に日産リーフが登場して以来、完全電動化の未来に向けて政府およびパートナーとともに取り組んできた」 「この義務化は、英国での自動車製造のビジネスケース、数千の雇用と数十億ポンドの投資の実現可能性を損なう恐れがある。英国の自動車産業に取り返しのつかない影響が及ぶのを避けるため、年内に政府が緊急の措置を取る必要がある」 カルティエ氏は、日産が英国内の施設全体で7000人を雇用し、英国経済に20億ポンド(約3900億円)以上の貢献をしていることに触れ、長期的な解決策について政府と協力することを約束した。しかし、「英国の自動車製造業を確実に守り、ゼロ・エミッションとカーボン・ニュートラルへの移行を確実に実現し、支援するためには、早急に行動を起こす必要がある」とした。 しかし、運輸省は協議後の声明で、「この業界が直面している世界的な課題を認識し、閣僚は、2030年までにEVへの移行を支援するために、業界と建設的かつ緊密に連携して取り組むという政府のコミットメントを強調した」と述べた。 政府は常々、2030年から2035年の間に “特定” のハイブリッド車(おそらく、ほぼゼロ・エミッションに近い能力を持つ車両)の販売が可能であると述べてきたが、その詳しい内容は「しかるべき時期」に示されるとしているに過ぎない。声明ではZEV義務化について具体的に触れていないため、業界の懸念に応えて何らかの変更が加えられる可能性はある。 政府は、英国は欧州主要諸国の中でゼロ・エミッション車の販売台数が最も急速に伸びているとし、「業界と消費者の移行を支援するために23億ポンド(約4500億円)以上を提供し、毎日平均57基の新しい公共EV充電器を増設している」と付け加えた。 自動車業界団体SMMTのマイク・ホーズCEOは、今回の協議について次のように述べた。 「経済成長とネット・ゼロの両方に対する英国自動車業界のコミットメントを再確認する重要な機会だった。しかし、業界はまた、EVへの移行のペースや、それが市場全体の健全性と製造拠点としての英国の魅力に悪影響を及ぼしていることへの懸念も表明した」 「雇用を維持し、成長を促進する強力な市場と製造基盤には、消費者への支援、つまり財政的インセンティブと、充電ネットワークが必要なときにそこにあるという確信に裏打ちされた、実行可能な規制が必要である。我々は今後、政府と緊急に協力し、業界と政府が目標を達成するために必要な調整を特定し、この移行に関わる消費者やその他の利害関係者に信頼を与えていく」 充電インフラの業界団体チャージUKの代表であるヴィッキー・リード氏は、充電業界を「英国の成長物語」と呼び、過去10年間の進歩が「政府によって認められた」と評価した。 リード氏はさらに、「不確実性がEV移行の敵であり、あらゆる方面の投資を脅かすということに誰もが同意している。我々は、これから行われる協議を注意深く検討し、すでにあるもの、つまり、強力なZEV義務化を維持するよう訴え続ける」と述べた。 英国のZEV義務化をめぐる今後の動向については、進展があり次第お伝えしていく。
ジェームス・アトウッド(執筆) 林汰久也(翻訳)