世界のフラッグキャリア「パンアメリカン航空」はなぜ破綻したのか? 20世紀の航空文化を変えた絶大な影響力を振り返る
今も残り続ける名門の遺産
路線を次々と売却しながらも2度復活したパンナムは、消滅してしまったが、長年にわたり長距離国際線の運航に携わってきた同社は多くの財産を残している。 まず、マイアミにある「パンナム・フライトアカデミー」はANAの傘下として多くのパイロットを養成する機関として今も健在だ。象徴であったニューヨーク・マンハッタンのパンナムビルは生命保険大手のメットライフに売却されたが、現在もメットライフビルとして多くの大手企業をテナントに受け入れている。 また、1950年代から80年代にかけて多くの映像作品に登場したが、現在でも20世紀後半を舞台にした作品にはよくその名を見ることができる。同社自体も2011年には「PAN AM」というテレビドラマとなり、航空自由化前の繁栄を伝えている。 パンナムは斬新な発想と全世界を舞台にした大規模な運営で航空業界をリードしていた。消滅から随分とときがたったが、同社が展開した機材やサービスの開発、旅情あふれるコンテンツは多くの人々に飛行機や航空機への憧れを抱かせ、その知名度を高めることに成功したブランド戦略は今も色あせていない。 一方で、失敗は航空業界に多くの教訓を残した。高コスト体質からの脱却や、機種を増やして余計な費用をかける合併などが、衰退を引き起こした要因となり、その後も多くの航空会社の破綻を招いている。日本航空は組合問題やJASとの合併に苦しんだ典型例である。 パンナムの歴史は成功も失敗も衝撃を与えた。その教訓をどのように学ぶかは、世界中の航空会社にとって永遠の課題だ。 ●参考文献 ・チャーリー古庄(2021)「写真で見る消滅エアライン600」(イカロス出版) ・Pan Am Flight Academy ・ Thu「パンナム:世界の空の旅を変えた国際航空のパイオニア」(2021年12月30日CNN.co.jp) ・ 日米航空協議,平成10年度運輸経済年次報告 ・帆足孝治『パン・アメリカン航空物語―栄光の航空王国を支えた日本人たちの記録―』(イカロス出版)
前林広樹(乗り物ライター)