なぜ高校野球の新たなリーグ戦は拡大し続けているのか?『チームのために個人がいる』ではなく『個人の成長のためにチームがある』~野球指導者・阪長友仁のビジョン後編~【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.7】
個人の成長のためにチームがある。みんなでより豊かに生きられる国へ
最後に阪長に、今後の思いについて語ってもらった。 「今の高校野球のシステムでいうと、例えば部員が100名いた場合、そのうちのわずか20名しかベンチに入れません。はたして、選手一人ひとりのことを考えた時に、試合に出られない選手たちは幸せなのか?もちろん、レギュラーになるために頑張ろうとか、競争を経験するというのは大事かもしれませんが、それって今後はどうなのかな?と思うところがあって。『チームのために個人がいる』という時代ではなくて、『個人の成長のためにチームがある』というスポーツ界や野球界にしていかないといけないと思うんです。本当はスポーツというもの自体がそもそもそうなんですよ」 「学校だって、学校経営のために生徒が必要っておかしい。チームが勝つために選手が必要だというのも、それはどうなのかな?と思いますね。一人一人の成長のために、チームが必要であり、チームメイトを大切にすることが大切であり、チームワークを学んで実践することが必要。切磋琢磨していくために相手チームが必要。だからサマーキャンプにおいても、最大20人までで1チームなんです。そうすることで、一人ひとりが必ずプレーできる場もあるし、チームとして勝利を目指すために自分は何ができるかと、チームワークを学んでいくこともできると思う。そういったシステムが野球界には必要だと思っていますが、現実的にそういうシステムがないので、みんながイメージできるものを作ろうというのが、今回のサマーキャンプのコンセプトですね」 「そして最終的な狙いは、野球界以外の人がサマーキャンプを見てくださったり、知って下さったりして、『うちの業界もこう思っているけど、こうやってやったらいいんじゃないかな』みたいな建設的な意見交換ができればうれしい。そこにビジネスチャンスだったり、子育てのチャンスがあるんじゃないと思ってくれて、日本の社会が変わっていくのが一番の狙いです。こうやってみんなでより豊かに生きられる、生きていける国にしていきましょうよ、時代にしていきましょうよ、という思いが強いですね」 この夏、阪長の投じる一石は、日本の野球界をまたスポーツ界や日本全体を変えていくための大きな、大きな一歩になることを願いたい。 そして、日本の社会全体が、「大人の言うことを子どもに聞かせる」という考えから、大人が子どもを尊重し、対等に並んで歩むという時代に一日でも早くなるように。 そんな日がきたら、子どもたちは、大人の目なんて気にせずに、もっともっと生き生きとゴキゲンに、幼少期から10代の時間を過ごすことができるのだろう。 日本の伝統的な良さも大事にしながらも、変化を恐れず、日本の未来のために――。阪長は今日も走り続ける。 (文=安田未由)
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