「オーガニックで会社を大きくする」は「客に嘘をつく」に近い/タオルの聖地・今治から風雲児が目指す、中小企業が救われる社会とは~イケウチオーガニック後編
◆「アイデアの泉」「顧客に届ける」正反対の2人
―池内代表が「アイディアの源泉」となり、阿部社長が「お客様に届ける術」を構築していく二軸体制になっているのですね。 社長交代から7年が経ち、見えてきた課題はありますか? 池内:自分がもう社長ではないと気づくまでに3年かかっているんですよ(笑)。 ここ4年でようやく、「中身を見るとああだこうだ言いたくなる。 阿部が全部見ているんだから黙って判を押そう」と目をつぶるようになりました。 ―阿部社長の実感はいかがでしょうか? 阿部:自分の中での棚卸がやっと進んだ気がしています。 これまでは「どうあるべきか」論でずっと考えていたんですよ。 もともと起業家の資質がなく、人に届く言葉も持ち合わせていませんから、機械的な運営に特化せざるを得なかったんです。 でもそれでは「感情がない運営」になってしまう。 料理にスパイスを入れる匙加減は、体調によって異なりますし、正解なんてありませんよね。 でも私は「経営に感情をどれくらいのせるべきか」という答えをずっと求めようとして、行き詰っていました。
◆「知らんものは知らん」も大切
―その状態をどのように脱したのですか? 阿部:「4つの軸」に分けて考えることにしたんです。 「好きでありできるもの」「好きだけどできないもの」「嫌いだけどできてしまうもの」「嫌いでありできないもの」。 このうち、「好きだけどできないもの」をやろうとしてしまうんですよね、人間ですから。 でも組織の中にいる以上は手を付けてはいけない。 今までの私は、「やってはならないことばかりやろうとしていたんだ」と最近ようやく気づきました。 イケウチオーガニックには、任せられる人材が大勢いるのだからと踏ん切りがついたんです。 「知らんもんは知らんし、できんもんはできん」。 私はどこまでやるべきなのか、が朧げながら見えてきたように思います。 池内:僕だって会社でできることはごく一部で、できないものはスタッフに完全に任せています。 「ものづくりをしています」と言っていますけど、あくまでアイデアを掲げているだけで、自分では糸を紡げませんから。 阿部は自分で糸を紡ごうとするでしょう(笑)。 できないことを「できます」なんて言わなくていいんだよ。 方針は明確に出した方がいいけど。 阿部:分からないままでは方針を出せない、と思ってしまうんです。 それでうまく転がるパターンもあって、例えば「タオルの洗濯」がそうですね。 今でこそ「タオルドクター」としてお手入れ方法をお伝えしたり、パナソニック洗濯機の「タオル専用コース」を監修したりしています。 でも、最初は洗濯のいろはなんて何一つ分からないまま、お客様との会話で浮かんだ疑問を研究していく中で、自分が洗濯にのめり込んでしまって…。 たまたま「タオルメンテナンスサービス」の展開などに繋がりましたが、すでにプロフェッショナルがいる場合は任せないと混乱を招きますし、本業に支障を来します。 池内はそこの線引きが非常に明確です。 今までの私は過干渉で、従業員が自主的に考える機会を奪っていました。 今後は、建設的な意見が活発に交わされる空気を作っていかねばと思っています。