渡辺えり、母を亡くした悲しみ「私69歳で孤児になっちゃった」木野花「悲しむのも、楽しむのも、そもそも一人の時間って大切なものなの」
47年のつきあいになるという渡辺えりさんと木野花さんは、演劇界をともに駆け抜けてきた同志であり、よき友でもあります。「婦人公論ff倶楽部」発足1周年記念のトークイベントでは軽妙で楽しいトークを披露。互いに対する敬意が、長きにわたって友情が続く秘密のようです(構成=上田恵子 撮影=本社・武田裕介) 【写真】華やかな桃色のワンピースを華麗に着こなす木野さん * * * * * * * ◆「推し」が人生に張り合いをくれる 木野 演劇以外の楽しみで言うと、私はいまK-POPにハマってるのよ。といっても、去年からなんだけど(笑)。『赤い袖先』という韓国ドラマを観ていて、主役の子がとっても芝居がうまくて魅力的だったのね。誰なんだろう、と調べてみたら、アイドルグループ「2PM」のジュノだったわけ。 渡辺 木野さん、K-POPのファンなんだ。 木野 いまは「ファン」とか言わないで、「推し」って言うのよ。 渡辺 じゃあ、その「推し」ができて、生活は変わりました? 木野 私の生活に、音楽が入ってきたからね。毎日楽しいわよ。今日はどの曲を聴こうかとか、どのドラマを観ようかとか、ウキウキするから一人でも全然寂しくない。人が楽しい気持ちになるって、ものすごく簡単なことなんだとよくわかりました。 渡辺 韓国の俳優さんって、みんな芝居がうまいわよね。私も以前、『愛の不時着』のヒョンビンにハマって、韓国語を習い始めたの。 木野 え、習ってたの? 渡辺 そうよ。だって、いつか共演しようと思ってたから。そうしたら相手役の女優と結婚しちゃったでしょう。その瞬間に冷めちゃったね。 木野 結婚くらいさせてあげてよ。 渡辺 なにも相手役じゃなくたって。私のほうがいいんじゃないかな、と思ってずっと観てたのにさ。
木野 それ以降、推しはいないの? 渡辺 いない。ジュリー(沢田研二さん)は小学生の頃からずっと好きで、ジュリーについて考えることは私にとって日常でしょ。「いまハマってる」みたいなことじゃないから。 木野 じゃあ、えりが打ち込んでいるものは演劇だけってことなのかな。 渡辺 そもそも私、11月10日に母ちゃんを亡くしたばかりなんですよ。14日がお葬式、15日が舞台『鯨よ! 私の手に乗れ』の稽古初日で、泣く暇もなかった。稽古で気がまぎれるかと思ったんだけど、なにせ設定が介護施設の話じゃない。火葬場で「母ちゃんのこと、焼かないで!」と思った記憶が蘇ったりして、稽古しながら毎日号泣ですよ。 木野 わかるよ。 渡辺 母ちゃんは私が演劇をやることに反対でね。それでも上京する日、「これからは朝、起こしてあげられなくなるから」って上野でセイコーの5000円の目覚まし時計を買ってくれたんですよ。いまも家にあります。木野さん、私69歳で孤児になっちゃった。夫も子どももいないし、マンションで冷たくなっていても誰も気づかないと思う。どうしよう。 木野 年を取った独り者はみんなそう。私だって、一緒よ。 渡辺 うちは部屋が整理されていないから、誰かが心配してきてくれたとしても、それが気がかりなの。 木野 だから掃除しようよ。もう70歳になるんだから(笑)。朝、植木に水をやったあと、清々しい気持ちのまま部屋に入れば、自然ときれいにしようって思うようになるわよ。