「20年で300万円が30億円に」…「伝説のトレーダー」が発見した「寝てるだけでボロ儲け」できる「驚きのしくみ」
ふつうに生きていたら転落するーー! あまりに残酷な「無理ゲー社会」を生き延びるための「たった一つの生存戦略」とは? 【写真】「1週間で700万円」…伝説のトレーダーの「寝てるだけで儲けるしくみ」 作家の橘玲氏が、ますます難易度の上がっていく人生を攻略するために「残酷な世界をハックする=裏道を行く方法」をわかりやすく解説します。 ※本記事は橘玲『裏道を行け』(講談社現代新書、2021年)から抜粋・編集したものです。
もっとも成功した一人ヘッジファンド
「ホームレスが自動販売機から小銭を集めてますよね。ぼくがやってるのも同じことです」と山本さん(仮名)はいった。「なぜって、返却口の取り忘れた釣り銭を拾うのは無リスクじゃないですか」 2000年代のはじめ頃のことで、山本さんは自ら開発した株式市場や商品市場の自動売買プログラムで安定した利益をあげ、同業者から「もっとも成功した一人ヘッジファンド」と呼ばれていた。 1970年生まれだから、当時はまだ30代半ばだった。 もちろん、自販機を1台ずつ調べて回るには大きなコスト(手間)がかかる。だがこれをロボットがやるとしたらどうだろう。日本じゅうの自販機から自動的に小銭を回収できれば、寝ているあいだにどんどんお金が貯まっていく。 山本さんの手法は、「エッジがあるときだけ取引する」ことだった。エッジ(Edge)はナイフなどの刃のことで、「強み」や「優位性」の意味で使われる。 ギャンブルでエッジがあるのは、勝率が50%超の(期待値が1を超える)ときで、それがどれほどわずかな金額でも、取引を繰り返せば大きな利益になる。 金融市場の小さな歪みから(ほぼ)無リスクで利益を積み上げるこの戦略は「マーケットニュートラル」と呼ばれ、ヘッジファンドの基本戦略だ。 山本さんは理工系の私立大学を出て、コンピュータの知識を買われて大手IT企業の研究所に就職したが、当時から金融市場を「リバースエンジニアリング」する可能性に気づいていた。
「1週間で700万円以上」の利益が勝手に……
テクニカル分析では「すべての情報はチャートに織り込まれている」とされ、株式市場や商品市場の日足(始値、高値、安値、終値)のパターンから未来を読み取ろうとする。 これはほとんどの場合、根拠のない経験論だが、1980年代になるとリチャード・デニスやラリー・ウィリアムズなどアメリカのトレーダーが、市場には一貫した「癖(アノマリー)」があり、それを利用すれば短期トレードで大きな利益をあげられることを発見した。 とりわけデニスは、「市場は効率的で超過利潤を得る機会などなく、<トレードで儲かる>などというのは詐欺の類だ」という(効率的市場仮説を信じる)経済学者らの批判にこたえるため、「タートルズ」と名づけた20人ほどの弟子に戦略を伝授し、大きな利益を生むことを証明した。 デニスの手法はトレンド・フォロー(順張り)で、1986年には8000万ドル(約90億円)の利益をあげたが、翌87年の市場の混乱(ブラックマンデー)で巨額の損失を負ってトレーディングから手を引き、その後はマリファナ合法化を求めるリベラルな社会運動家になった。 山本さんは、こうしたアメリカの大物トレーダーたちに影響を受けた日本の最初の世代になる。若いときからコンピュータを使いこなしていたこともあって、金融市場の取引データを解析してアノマリーを見つけ、自動的に売買指示を出すシステム──金融市場の自販機を巡回するロボット──をつくろうとしたのだ。 独自に開発したプログラム取引によって、山本さんは300万円の資金を20年で1000倍の30億円に増やし、フェラーリに乗り、結婚して2人の子どもに恵まれ、都内の高級住宅地に大きな家を建てた。 だが2019年、山本さんは不慮の事故で帰らぬひととなってしまう。 そのあと、家族に頼まれて、私の知人が証券会社や商品会社に死亡届を出した。山本さんが動かしていたのはわずか4本のプログラムで、本人が死亡してからも動きつづけ、1週間で700万円以上の利益を生んでいたという。 さらに連載記事<「トランプ再選」に落胆する「リベラル」がまったく理解していない、世界中で生きづらさを抱える人が急増した「驚きの原因」>では、人生の難易度が格段に上がった「無理ゲー社会」の実態をさらに解説しています。ぜひご覧ください。
橘 玲(作家)