<結びつく陰謀論・極右・ロシア>国政政党も関与したドイツでのQアノン信奉者によるクーデター未遂事件 世界を覆う陰謀論の脅威
ドイツでは、2022年末時点で約2万3000人がライヒスビュルガーに属していると考えられており、その数は年々増加している。今回の逮捕以前にも、2020年8月にライヒスビュルガーおよびクエルデンカーは新型コロナウイルス感染症対策のための各種制限に反対する抗議デモを行い、その際、ドイツの国会議事堂を襲撃しようとした事件を起こしている。 デモはクエルデンカー主導で約3万8000人を動員し、ライヒスビュルガーの一団は警備の封鎖線を破ってベルリンの国会議事堂の入口に駆け寄った。彼らは入口付近の階段を占拠し、旧ドイツ帝国の国旗を掲げ、議事堂前では乱闘が起きたが、最終的には警察官により制圧され、アメリカ議事堂襲撃のような大事には至っていない。しかし、ライヒスビュルガーの拡大や度々の体制破壊的行動から、今回のクーデター首謀者が逮捕されたとしても、同様の流れが続くのではないかということが大きな懸念となっている。
国政政党が陰謀論者のクーデター計画に関与
クーデター計画発覚直後のドイツ議会では、右翼過激派との関係という点で、AfDが各党議員から集中砲火に遭っている。ライヒスビュルガーの事件当事者においては、現役の関係者ではなかったものの元AfD議員の関与があったこと、そして当該議員は任期中にライヒスビュルガーの共犯者を政府施設に招き入れて下見をさせていたことが問題視された。 また、事件後にAfD関係者はライヒスビュルガーの体制否定的な思想を批判しつつも、これは少数者の変わり者の運動で真の脅威ではないといった矮小化と見なせるようなコメントをしたため、大きな批判に晒された。AfDはこのような右翼の過激化の火種となっており、その脅威を矮小化するような姿勢は許されない、また今回の逮捕は氷山の一角でありAfDとの関与も引き続き疑われる、といった批判がなされた。 実際に、2024年9月のザクセン州ヴァイスヴァッサー市長選挙では、ライヒスビュルガーの分派である「ドイツ王国」グループのメンバーがAfDから立候補しており、その関係性は否定できるものではない。 国政政党がこのような極右過激派と関係を有していることも問題だが、AfDは中露との協力関係も問題になっている。2024年4月には、AfD党員でヨーロッパ議会議員マクシミリアン・クラーの側近が中国情報機関に機密情報を流したとして逮捕される事件があった。 さらに、AfD議員や党員が、中露からの資金援助を得て親中、親露のメッセージを拡散しており、ドイツ・ナショナリズムを標榜しながらもドイツに対する影響力工作の橋頭堡になってしまっている。例えば前述のクラー議員は、中国のチベット占領70周年を祝う動画を投稿したり、ウクライナ戦争におけるプーチン大統領の戦争正当化の主張を支持したりしていた。 またドイツ誌シュピーゲルの調査によると、AfDのマニフェスト作成にロシアが関与したことも明らかになっている。 陰謀論的思想に基づく極右過激派の台頭および体制破壊的行動の実行と、これらの運動に中露と関係する国政政党が関与していくことの危険は、安全保障上の脅威として認識されるべきである。 また、同様の陰謀論運動と政党の関係が日本を含めた他国でも連鎖しないか、危機感をもって注視すべきであろう。