男の方が嫉妬深い? 夫に激しく嫉妬された3人の女性たち【齋藤 薫】
才能に対する嫉妬が最も深い闇を持ってしまう
今回アカデミー賞の5部門でノミネート、カンヌ映画祭のパルムドール、ゴールデングローブ賞の脚本賞も獲得したのが『落下の解剖学』という作品。いわゆる法廷劇なのに全くありきたりではない、これまで観たことのない、経験したことのない緊迫感がずっと続く、濃厚な作りとなっています。設定もストーリーも地味ながら、心に絡み付く一作となりました。 でもなぜここで取り上げたか? じつはそこに、ミモレ世代にも関わってくるような夫婦の形、そこに生まれる男の嫉妬が描かれているから。 夫の突然の死は、自殺か、はたまた妻の仕業か、それを探る中で、ベストセラー作家と作家志望の夫婦の危い関係が、次第に浮き彫りにされていくのです。 嫉妬の中でも最も重く、深い闇のように出口が見つからないのが、実は才能への嫉妬だといいます。それが、夫から妻への感情であったとしたらどうでしょう。生きているのが苦しくなるほどの深刻さを生むのは避けられないのです。 ただこれが、もしも妻と夫の立場が逆転していたら、不思議にそんなことにはならないはずで、あくまでも女性の才能に対する男の嫉妬が非常に厄介なものであるということに気づかされます。
職場でも、女性の才能に対する男の嫉妬が最も深刻
ひょっとすると職場にも同じようなケースが見られるのかもしれません。そもそも社会では、女よりも男の方が嫉妬深いと言われます。それが、女性の才能に対するものだったら、オフィスの人間関係で最も難しいものになるのかも。 実際そういう立場にある人は、ひたすら嫉妬から身をかわし、逃れてください。つまり、なるべく相手の関心を浴びないよう、もっと言うなら相手の視界に入らないよう心がけること。逆にこちらから近づいて、嫉妬する相手を努めて評価したり、相手を優遇してたりする工夫も必要かもしれません。ばかばかしいけれど、そんなことしか対策がないのも、また嫉妬なのです。 もちろん、どちらかがその場を去れば一瞬で終わる、それもまた嫉妬の特性だったりしますが、夫婦はそこで簡単に立ち去ることができないからこそ厄介なのです。 残念ながら、ここに挙げた3組の夫婦は、関係が修復されずに終わっていきます。でも1つだけほっとさせられるのは、マリリン・モンローが36歳で亡くなった時、その埋葬に力を尽くしたのは、たった9ヵ月で離婚に至ったジョー・ディマジオでした。憎しみあって別れたのではない、たまたま二人の間に生まれた嫉妬の不可抗力を、その場ではどうにも取り除くことができなかったからの別離。でも相手への純粋な思いはまだ生きていたということなのです。 それは、嫉妬よりも愛の方が本来は力強いことを示しているともいえます。 だから、具体的な対策を提案するまでには至らなかったけれど、男の嫉妬、夫の嫉妬には、深刻な事態にならない前に、妻から夫へ、リスペクトを形にして見せること、そしてまたお互いをより深く理解するための話し合いを繰り返すこと、それしかないのかもしれません。あくまで愛情があるなら、の話ですが。 もともと嫉妬ほど不毛な感情は無い、それだけは確かなのですから。 構成/藤本容子
齋藤 薫