逆襲のアシックス 箱根駅伝で「シューズ着用者0人」からV字回復、その舞台裏
約1年で斬新なモデル開発 「離れ業」成功のカギは
なぜ、これだけの離れ業が可能だったのか。竹村氏は実情をこう明かしている。 「社長直轄というのがすごく大きいと思います。本来ならそれぞれのセクションで決裁が必要になってくるんですけど、社長がOKすればすぐに動き出せる。ものすごくスピードが速くなりました。それに社長は『お金は気にしなくていい』と。サンプルもソールの厚さ、プレートの形などを微妙に変えて複数用意して、契約アスリートからフィードバックをすぐにもらえるようにしたんです。それで短期間で結果を出すことができたかなと思います」 振り返ると、2022年6月中旬のイベントに登場した廣田康人代表取締役社長CEO兼COO(当時)の言葉は自信と刺激に満ちていた。 「アシックスのミッションはパフォーマンスランニングおよびレーシングカテゴリーでナンバーワンブランドになることです。2020年は反転攻勢、2021年は持続的成長を可能とするビジネスの基盤づくりをテーマに掲げ、特に商品の開発に注力してまいりました。2022年以降はこれまで築いてきた基盤の上でさらに躍進していきたいと考えております。そして2025年にはわれわれのミッションを実現したい」 そして2年半前に廣田代表取締役会長CEOが目標に掲げていたリミットがいよいよ迫ってきた。“反撃のアシックス”はいまかなり面白いところに位置している。
進化を続けるMETASPEED
2022年6月にはランニングエコノミー(ランニング効率)が2%以上も増加した「METASPEED+」シリーズを発売。2024年1月の大阪国際女子マラソンでは「METASPEED」シリーズを着用した前田穂南選手(天満屋所属)が2時間18分59秒を叩き出して、19年ぶりの日本記録を打ち立てた。そして2024年3月には「METASPEED PARIS」シリーズを発売した。 METASPEED PARISはランナーが疲労したときでも適切な姿勢とキック時の角度をキープでき、レース後半でもストライドを保てるように再設計されたモデルだ。 新採用された「FF TURBO PLUS」というミッドソール素材は従来素材と比較して、約8.0%軽く、反発性は約8.2%、クッション性は約6.0%向上した。その結果、SKYは約20グラム、EDGEは約25グラム軽くなった。また「SKY」はカーボンプレート前足部の幅を拡大、EDGEは前足部の厚みを3ミリ増加させたことで反発性がアップした。 新モデルは「スタートからゴールまで、自身のパフォーマンスを最大限発揮できる」と着用する選手からの評価は高いようだ。 10月27日の全日本大学女子駅伝で9年ぶりの優勝を飾った立命館大学の主将・村松灯選手(4年)は「METASPEED SKY PARISはより反発があり、前に進む感じが得られるため、レース後半になっても、しんどいはずなのに脚が前に進みます。またピッチ型とストライド型の2種類あることで、より自分に合ったシューズを選べるのが良いと思います」とコメントしている。 また前回の箱根駅伝は8区を5位と好走して、2月の延岡西日本マラソンを2時間9分26秒で制した早稲田大学・伊福陽太選手(4年)は「前シリーズはSKYの反発性が自分に合っていましたが、PARISシリーズはEDGEの方が反発性と安定感が合っていると感じて、履き替えました。安定感もあるためレース後半でも足が動きます」とMETASPEED EDGE PARISに好感触を得ているようだ。 一度は学生長距離界から消えたアシックスの反撃は続いている。今季の学生駅伝は前年と比べて、10月の出雲駅伝で4.4%、箱根予選会で7.6%も着用率がアップした。全日本大学駅伝でも前年から着用率が2.7%増加しただけでなく、1区(日体大・平島龍斗選手)と8区(駒大・山川拓馬選手)で区間賞を獲得している。 2025年正月の箱根駅伝におけるシューズシェア率はナイキ、アディダスという世界的ブランドとの“3強対決”が有力。2025年までに「パフォーマンスランニング市場のシェア1位を目指す」と宣言しているアシックスは好スタートを切れるのか注目したい。
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