「重力は上から下に働いている」という「大きな誤解」…「地球が丸くても、反対側の人間は落ちない」のはなぜなのか?
物理に挫折したあなたに――。 読み物形式で、納得! 感動! 興奮! あきらめるのはまだ早い。 大好評につき5刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。 【写真】なぜ「重さ」ではダメで「質量」でないといけないのか? 本記事では〈「物理は質量がすべて」と言える理由…なぜ「重さ」ではダメで「質量」でないといけないのか? 〉に引き続き、質量とは何かについてくわしくみていきます。 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。
「質量」の定義には加速度が必要
この質量という概念には、「重さ」という人間が体感できるものによる定義は使われていない。質量を定義するにはまず、最初に「加速度」という人間には非常にわかりにくい概念を考えないといけない。 「いや、加速ってわかりにくくないよ? 普通に感じている」と言うかもしれないが、そういう人が感じているのは「加速度」ではなく「加速力」、つまり、加速度によって生じている力のほうである。 人間はほかにも、物体の表面の滑らかさを指でなでるときの力の大きさで感じたり、あるいは、疾走しているときに顔に当たる風の強さで速度を、というように「力」を通じて非常に多様なものを認識しているので、認識しているもの(=加速)が、それそのものではなく、それによって生じた「力」を感じているにすぎない、ということを忘れがちである。 「加速度」は速度が時間とともにどれくらい変化するか、という割合である。式で書くとすると、 ---------- 加速度=(速度の変化)/(経過時間) ---------- となる。加速度が増えると、加速度によって生じる力も大きくなるから、我々が実際に感じているのは加速力なのに加速度を感じていると勘違いするのだ。加速度を増やすには必要な力も増えるが、加速度と力の増え方にはどんな関係があるのだろうか? たとえば、力が2倍になったら加速度も2倍になるのだろうか? それとも力が2倍になったらその2乗倍で加速度は4倍になる? こればっかりは実験で確認するしかない。 物体を同じ力で引っ張り続けて動かした場合(ただし、摩擦は無視できる環境で! )の加速度を測ってみる。同じ物体で力が2倍の場合の加速度も測ってみる。物体を同じ力で引っ張るとどんどん加速して速度が速くなるので簡単ではないが、そこはがんばって同じ力で引っ張り続けたとしよう。 その結果わかったのは「加速度は加える力の大きさに比例する」ということだった。つまり、加える力を2倍にすれば加速度も2倍になるのである! そこで、 ---------- 質量=力/加速度 ---------- と定義する。こうすると「重いものほど動かすのが大変」という重さについての直感的な理解を表現できる。たとえば、力の大きさが同じなら、動かしにくい物体は、加速度が大きい物体に比べて、質量が大きくなる。すなわち「重たい」(質量が大きい)ものほど動かしにくいという直感的な理解に合致している。 また「質量=力/加速度」という式には重力が登場しないので、重力を持ち出さなくても人間が直感的に感じている「重さ」が定義できる。 また、実験的事実から、 ---------- 重力=質量×重力加速度 ---------- という関係が成り立つ。質量が2倍になると重力も2倍になるので、重力を質量で割って定義される「重力加速度」は質量の大きさによらず一定になる。つまり、質量の大きさによらず、物体は同じ加速度で落ちることになるが、これは実験事実に合致している。というわけで「重量」という人間にわかりやすい重さの概念じゃなく、「質量」という人間にはわかりにくい重さの概念を物理学では採用することになった。