訪日外国人客の争奪戦に勝つ 浅草のすしにぎり体験専門店
訪日外国人(インバウンド)客の増加が続いている。日本政府観光局の発表によると、2024年10月の訪日外客数は331万2000人で、前年同月比31.6%増、19年同月比32.7%増と、過去最高を更新した。10月までの年間累計は3019万2600人に達し、統計開始以来最速で3000万人を突破している。 【関連画像】玉寿司は1970年代、「末広手巻」という名称で、今では誰もが知る「手巻きずし」を広めた(写真提供=玉寿司) また、国土交通省の発表では、24年7月~9月の訪日外国人旅行消費額は1兆9480億円(1次速報値)で、19年同期比で64.8%増加した。1人当たりの消費額は22万3195円で、コロナ禍前の約1.4倍に達している。 訪日外国人客の獲得を目指して各飲食店による熾烈(しれつ)な争奪戦が始まっている。「週払いの雇用で人材確保 浅草でリーズナブルに神戸牛を提供」で紹介した同じエリアに複数店舗を出すドミナント戦略も、訪日外国人客獲得の一環だろう。 また元力士による迫力ある相撲ショーを開催する「横綱とんかつ どすこい田中」(「相撲ショーで訪日外国人が殺到 土俵があるとんかつ店が話題に」)は、訪日外国人客をターゲットにした体験型店舗として大盛況である。 こうした中、創業100周年を迎えた老舗すし店「築地玉寿司」は、いち早く訪日外国人客を意識したすしにぎり体験専門店を立ち上げ、新たな取り組みを始めている。一体どのような店なのだろうか。
職人さながらの白衣や職人帽を着用して、自分で握ったすしを実食
訪日外国人客が好む日本食は、やはりすしだ。観光地で多くのすし屋がひしめく東京・浅草に、本格すしにぎり体験専門店「寿司にぎり体験 浅草道場」を24年9月20日にオープンした。 場所は、東武鉄道浅草駅直結の商業施設「浅草EKIMISE(エキミセ)」の7階。東京メトロ銀座線「浅草駅」から徒歩1分、都営地下鉄浅草線「浅草駅」から徒歩3分とアクセスも抜群だ。 ニーズの高まりを受け、同じ場所にあった店舗を24年2月末日に閉店し、すしにぎり体験専門店に業態変更するという大胆な戦略をとった。浅草寺雷門周辺の路面飲食店に流れていた訪日外国人客を、取り込む狙いがあったのだ。 24年9月20日にリニューアルオープン。カウンターや座席はそのまま活用し、新規設備はフリードリンク用のショーケースなどの導入にとどめ、業態変更のコストと時間を抑えることに成功。この戦略が見事に当たり、現在、目標数値を連日達成している。 既存店はランチタイムのみでの実施だが、浅草道場は終日営業している。新しいニーズとして、会社のレクリエーションで利用したいなど、午後5時以降に来店するお客さんが増えたという。また、日本人からのお問い合わせが増えており、来日した外国人のお客さんの接待に使われることが多いそうだ。 体験コースは2つ用意されている。1つ目は、「プライベートカウンターコース90分」(1人1万1000円、以下、価格は全て税込み)。参加者は職人さながらの白衣や職人帽を着用し、カウンター内で職人から直接指導を受けることができるプレミアムなコースだ。 2人以上6人までの受付で、開始時間は11時、午後1時、午後3時、午後5時の1日4回。通訳ガイドが同行するため、言葉の壁も心配ない。通訳ガイドは、職人との掛け合いでジョークを交えながら、参加者を盛り上げる役割も担っている。 まぐろやサーモンなどのにぎり体験をはじめ、職人が握ったすしと自分で握ったすしの食べ比べ、職人が巻いた手巻きすしの試食、本わさびをすって味わう「本わさび味わい体験」、職人が目の前で作る熱々卵焼きを実食できる「寿司屋の本格玉子焼きショー」など、充実したコンテンツを楽しめる。 もう1つのコースは、テーブル席で参加できる「気軽な合同開催型テーブルコース60分」(1人11000円)だ。2人以上16人までの受付で、開始時間は11時、午後12時30分、午後2時、午後5時の1日4回。同じく白衣や職人帽を着用してまぐろやサーモンなどのにぎり体験、職人が巻いた手巻きずしの試食、本わさびをすって味わう「本わさび味わい体験」、職人が巧みな包丁さばきを披露する「包丁技術実演ショー」が行われる(写真はその一例)。 にぎり体験の参加者は、最初はうまくいかなくても職人による指導により、短時間でコツを覚えて上達していく人が多い。とはいえ、食べ比べてみると、自分が握った不格好なにぎりずしより、職人が握った美しいすしのほうがはるかにおいしいことを実感。「日本のすし職人はすごい」と、職人たちの技術力の高さに改めて敬意を抱く人が多いようだ。中には記念撮影をせがまれることもあるという。 ドリンクはアサヒスーパードライやバドワイザー、ハイネケンなどの小瓶ビールをはじめ、ハイボールやレモンサワー、ウーロン割りなどの缶アルコール、ミニワインや日本酒、烏龍茶やオレンジジュースなどのソフトドリンクがショーケース内にずらりと並ぶ。これらが全て、1人プラス1100円で飲み放題となる。 どちらのコースも最後に認定証が授与され、お土産として浮世絵などの絵柄コースター3種が参加者全員にプレゼントされる。 訪日外国人客を意識したきっかけは何だったのだろうか。寿司にぎり体験 浅草道場を運営する玉寿司の中野里陽平代表(以下、中野里氏)に話を聞いた。