重要ポストを自身のシンパで固めたトランプの要求に、政権基盤の弱体化が進む西側同盟国はついていけるのか
■ 民主主義vs権威主義 1989年秋にベルリンの壁が崩壊し、米ソ冷戦が終わったが、その後の世界では、民主主義体制が権威主義体制よりも優勢になっていった。ところが、21世紀になってから、この傾向が逆転していった。今では、人口で言うと、民主主義国家はわずか3割で、権威主義国家が7割となっている。 自由な民主主義国アメリカが世界一の経済大国であるが、GDPで世界第2位は権威主義国家の中国である。第3位はドイツ、第4位は日本であるが、第二次世界大戦の敗戦国である両国は、戦後目覚ましい経済復興を遂げ、世界の繁栄に貢献してきた。 しかし、最近の両国は、経済が不調で、政治的にも不安定になっている。両国が直ちに権威主義国家に移行することはないが、ドイツの変調はヨーロッパの、日本の不振はアジア太平洋の安全保障に大きな影響を与えかねない。 先の衆議院選挙で、日本では自公が過半数割れの状態になり、政策ごとにいずれかの野党の協力を仰がなければ、法案が国会で成立しない状況になっている。自民党は、衆議院予算委員長のポストを立憲民主党に譲るという妥協をした。 今後は政策決定に時間がかかるし、たとえば防衛費の増額が容易に国会で認められないような事態になるかもしれない。それは、日米同盟、そしてアジア太平洋地域の安全保障にとってマイナス要因となりうる。 その状態を歓迎するのが、中国、ロシア、北朝鮮という権威主義国家連合である。これらの国々では、国会が指導者の決定に反旗を翻すことはないし、その決定を実行するのも迅速である。また、政府の決定に異を唱えるメディアも国内には存在しない。その意味で、効率性という観点からは、権威主義体制のほうが民主主義体制よりも優位に立っている。
■ 発展モデルとしての中国 第二次世界大戦後は、近代化、「離陸」、つまり経済を発展させるためには、資本主義・自由主義モデルではなく社会主義・計画経済モデルを採用しようという発展途上国が多かった。それは、体制の優位性と腐敗の無さを宣伝するソ連のプロパガンダに影響されることが多かったからである。 しかし、東ヨーロッパと西ヨーロッパ、中国と日本を比べれば、後者のほうが、繁栄を築いたために、ソ連型モデルへの幻滅が進んでいき、それがベルリンの壁の崩壊に帰結したのである。 ところが、中国は、2010年にはGDPで日本を抜いて世界第2位に躍り出て、その後も2015年まで7%以上の経済成長を遂げてきた。新型コロナウイルスの流行、不動産不況というマイナスを経験した今日でも、なお5%前後の成長を維持している。中国のGDP実質成長率は、2023年が5.25%であり、2024年1~9月は4.8%である。日本の2024年4~6月期の実質成長率は0.7%に過ぎない。 権威主義国家が、このような経済成長、しかもITやEVなどハイテク分野で世界最先端を行くとは、1989年の東西冷戦の終焉のときには考えられないことであった。ソ連邦の崩壊は、自由な情報の流通が国家権力によって妨げられ、それが情報関連産業の発展を阻害したからだという説明が一般的であった。 ところが、政府による情報統制が行われている今の中国で、世界最先端のIT技術が花開いている。なぜなのか、その理由は識者によって十分に説明されていない。国家主導の研究開発が奏功したのか。あるいは、深圳のような「プロトタイプシティ」の試みが成功したのか(高須正和、高口康太編著『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』、2020年、KADOKAWA参照)。 この中国の発展は、世界の発展途上国に権威主義モデルの優位性を示すことになっている。ブラジル、ロシア、インド、南アフリカとともに、中国はBRICSを形成し、グローバルサウスの評価を高めている。