頑張れない女子が女優になった 希代彩「JKエレジー」で初主演
お祭りのシーンで号泣 役の気持ちになれた
「JKエレジー」でも、最初は役に入っていけなかったという。 「現場に入っても、ココアちゃんになっている実感がなくて。でも、お祭りのシーンがあって、隣でみんなが踊っていたり、円陣組んだりしているのを見て『わぁ~、こんなキラキラしている隣で私は何をしているんだろう』みたいな気持ちになって、号泣したんです。そのとき、あっ、ココアちゃんってこんな気持ちなのかって、すごい感じました。同年代の女の子たちが部活に打ち込んでいたりするのを見て、自分はお金もないし親も最低だし雲泥の差で、そこに対して嘆いて、もうどうしても立ち行かなくなってしまう気持ちがあふれ出たんです」 松上氏は、撮影を振り返って話す。 「この映画は主人公のココア役がうまくいかないとダメなので、彼女にかけようという思いでキャスティングしたんです。初めて会ったときは、結構強い顔をしているので意外でした。あと、クールな子なのかなと思いきや、話すと人懐っこい部分もあるし、一般的な同年代の子とあまりテンションが変わんないなっていうのがホッとしたというか。結果、すごい良かったです。本当にオファーして良かったなと、嬉しいですよ」
私もいつか、大人にならなければいけないのか
女優になりたい一心でこの世界に飛び込んでくる子との違いを、松上氏は感じていたという。 「彼女は当時、めちゃくちゃ役者になりたいみたいなことではなく、まず写真を撮られることが好きで……というぐらいの感じに見えたんです。だから、お芝居するってことについて、そこがたぶん『役者になりたいです』みたいなことじゃなかったんです。なんとなく、『あ、どうも』みたいな。演じることの面白さを、当時はまったくわかっていなかったと思うんですよ。それを徐々に経験を積み始めて、今は多少、持っているのかなと」 希代はうなずきながら、言葉をはさむ。 「だって、決めたら辛くなりません?『私は役者だ~』みたいに自分で名乗るの、一番辛い」 松上氏は答える。 「でも、たぶんそうしないとやっていけないと思うんだ、辛くて。たとえばオーディションにぜんぜん受からない、とか。心が折れちゃいそうなときに、唯一、モチベーションを保つのが『おれは演技が好きだ』とか『役者になりたい』みたいなところじゃないかな」 ここで希代は突然、表参道に遊びに行った話をし始めた。 「服を買いに行ったんですよ。ニューヨークの映画祭(JAPAN CUT2019)に行くからいい服を買いに行こうと思って。でもふだん触れない高級なものとかを見たとたん、自己肯定感が薄れまくって、誰かに存在を認めて欲しくなって、どうしよう?と思いながらおろおろしていましたもん。ラグジュアリーだから良いとかじゃなくて、丁寧でクォリティーの高い暮らしというものがあって、そういうところに触れてしまうと、自分の生活と比べてしまって。店員さんも、服がわかんない女が買いにきたよ、って感じですごい困ってるし」 役者をやる、自分は役者だと思う、そんな過程も自己肯定感とのせめぎ合いの中にあるようだ。そんな希代に、松上氏は「大丈夫だと思うよ」と声をかける。 「だってそんな下品な感じじゃないじゃん、アナタは。それは親御さんのしつけというか教育面もちゃんとあったと思う。今は、割とふらふらやっているぐらいで良いと思うけどね」
希代が笑って答える。 「周りに大人が多すぎるんですよね、きっと。私もいつか、こういう風に大人にならなければいけないのか」 希代彩はすでに結構な大人で、結構な女優だ。 (取材・文・撮影:志和浩司)