なぜ元世界王者の木村翔は「ハングリーさがない限りボクシングをやっても仕方がない」と引退を示唆したのか…プロ6戦目の若手にまさかのドロー
あまりもの不甲斐なさに木村自身がショックを受けた。 「全然ダメ。井岡、井岡と言ってきたけど、そのステージじゃない。追いかけてきた、自分の中でのスターの井岡と戦うステージに来ていない。無理でしょう」 試合前には、1階級上げて、4階級制覇王者、WBO世界スーパーフライ級王者の井岡一翔(志成)への挑戦プランをぶちあげていたが、まさかのドローに、その夢がしぼんだどころか、ボクシングを続けていく情熱さえ失った。 「引退詐欺みたいになるので今は(引退と)言わないが(気持ちが)固まっている部分がある。情けない。自分のボクシングはこんなもんかって。花形に来て(移籍)、いい練習、いいサポートをしてもらった。悔いはない」 引退を示唆した。 実は、試合後、控え室へ戻るなり、花形会長に、この試合を最後に引退する意思を伝えていた。 ――本当に引退するのか? 「どうですかね。何か(目標が)ないと…。ハングリーさを失っている。若い子とやってみて前のハングリーさがない(ことがわかった)。そこがない限り、ボクシングをやってもしょうがない。どう燃えるか。今後ね」 花形会長は、木村の申し入れを拒否。 「もう一回やれ」と檄を飛ばした。 「寝れば忘れるよ(笑)。明日になれば、またお願いしますってなる。ボクサーってそんなもん。とりあえず寝ろ!(笑)」 現役時代に”伝説の世界王者”大場政夫らに挑戦したが、4度失敗。デビューから11年目、5度目の挑戦で世界王座を獲得した苦労人ボクサーの花形会長だけに挫折感を抱くボクサーの気持ちは痛いほどわかる。 だからこそ「またやっていればチャンスもくる」と言い「最後はメキシコでもいってやるか」と笑い飛ばした。 五輪2連覇の”中国の英雄“、ゾウ・シミンを敵地で倒して引退に追い込み、WBO世界フライ級王座を獲得して、中国で福原愛氏の次に有名な日本人となったのが5年前。V1戦では元WBC世界フライ級王者、五十嵐俊幸の挑戦を退けたが、田中恒成との防衛戦に判定で敗れて王座から陥落した。その後は、所属ジムが会長の不祥事によって潰れ、花形ジムへ移籍するなど、波乱の時間が過ぎ、中国でプロレスまがいの異種格闘技戦のエキシビションマッチのリングに上げられる”事件“もあり、JBCから戒告処分を受ける”迷走”もあった。日本での試合は、その田中戦以来、3年8か月ぶりだった。 「後楽園に上がれて良かった。背中に応援を感じられるのは、いいですよ。いつもアウエーでやっていたから。でも、こういうところでカッコいいところを見せられないのが木村翔なんだよね」 33歳。決断への時間はそう多く残されてはいない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)