なぜ元世界王者の木村翔は「ハングリーさがない限りボクシングをやっても仕方がない」と引退を示唆したのか…プロ6戦目の若手にまさかのドロー
木村は元世界王者らしい見せ場は作った。 5ラウンドに至近距離から振り回した右フックで堀川をよろけさせコーナーに追い詰めた。続く6ラウンドには左フック、右ストレートがヒット。強烈な左ボディが、堀川の体を「くの字」にするほどめりこみロープを背負わせた。試合後「あのボデイは効きました」と堀川が振り返った一撃。KO寸前だった。 木村は、一気にフィニッシュを狙い、ボディを乱打したが、つめきれずに最後は、なんと打ち疲れて“ガス欠“。そこに反撃を受けて形勢が危うくなった。 スピードを生かし徹底したヒット&アウエーで木村との経験の差を埋め、その長所を殺してきた堀川は、ここが好機だと7ラウンド、8ラウンドは、足を止めて打ち合いに挑んだ。 「最後の2ラウンドはパンチが見えていた」という。 ジャッジの3人は共にこの終盤の2ラウンドを堀川につけた。逆転のドローだったわけだ。 灼熱のタイ合宿で鍛えあげたエンドレスなスタミナが木村の持ち味だったはずが、まさかのスタミナ切れ。木村は、「いい練習はできていたしコンディションは問題なかった。心拍数の問題ではなく7、8ラウンドと足がしんどかった。大振りしているからでしょう」と振り返った。 木村章司トレーナーも「大振りさせてしまった僕のミス。あれで無駄なスタミナを使わせた」と”ガス欠”の原因を説明した。 セコンドからは絶えず「小さく、小さく」「一発を狙うな」という声が飛んでいた。花形ジムへ移籍後、新しく取り組んできたのが、左ジャブを軸にしたコンパクトなボクシング。パワーとスタミナだけに頼ってフックとボディを振りまわす量的なボクシングスタイルからの脱却をはかってきた。 実際、戦った堀川が「ジャブは見えているのにもらってしまった」というほど、そのジャブに成長の跡を見せたが、再起戦の力みもあってか、大振りのクセは抜けきらず、結局、そこにエネルギーを使いスタミナをロスすることになった。 2020年2月にフィリピンでメルリト・サビーリョ(フィリピン)との地域タイトル戦で、2回TKO勝利して以来、2年3か月ぶりの復帰戦。昨年2月にボクシングイベント「レジェンド」で階級が上の元K-1王者、武居由樹(大橋)とエキシビションマッチは戦ったが、やはりブランクの影響は大きく、自慢のパンチの威力や相手に息をさせないほどの怒涛の連打の迫力にも陰りが見えていた。 「鈍っているものがあるのかな。練習していれば問題がないと思っていたが、2年3か月(のブランクの影響も)。それもあるのかも」 木村もクビをかしげた。 そして囲み会見の最後に衝撃的な言葉を口にした。 「もうあんまりボクシングをやりたくない」