無理な延命治療より「暮らしの中でみとりを」 住宅型老人ホームの10年
■家族にとっても
自然なみとりは、家族にとっても納得して死を受け入れることにもつながる。 高田由紀子さん(65)の両親は「ひさの」に相次いで入居。いたわり合い、97歳の父の最期を見送った母は今も「ひさの」で暮らす。高田さんは「それまで病院をはしごしていた父も施設になじみ、最期の時間を過ごせた」と感謝する。 高田さんは父の死後、念願だった長野県への移住を決めた。自分の人生も大切にしつつ、無理のない範囲で母の所へ面会に通う。 「ひさの」には現在、看護師や介護士、作業療法士など介護職が7人、調理担当が5人いる。入居者に寄り添い、一緒に語り、歌い、喜びや苦しみを分かち合うことを大切にしている。
■「死に時」まで
「どうぞ堂々とぼけて老いて、人の手を借りてください。できなくなったことを数えて嘆くのではなく、できることを数えて感謝する。そうするとずいぶん気持ちが楽になり、肩の力が抜けます」。今月5日、宗像市で開かれた講演会で田中さんはそう呼びかけた。 老いと死は、大地の循環にも似た自然の摂理だということを、田中さんはこの10年で身をもって学んだ。 「ちゃんと全員に『死に時』がやってくる。それまで与えられた命を精いっぱい生きましょう。かけがえない1日になるはずです」