余命宣告を受けた写真家が今になって思い出す「樹海の自殺志願者」の言葉
ガン患者と家族、ガン経験者やご遺族、医療従事者。 難病や精神疾患や発達障がいを抱えて生きる人。 いじめ被害者や加害者、引きこもり経験者。 自殺することを決めてる人。殺人経験者などさまざまだ。 健康でガン患者とどう接していいかわからないという人にもたくさん会った。 僕が未熟なために相手の話に胸がつまり、取材中に何度も涙を流してしまった。 自殺をしなくて本当によかった。あそこで死んでいたら、当たり前だけど聞けなかった話なのだ。 20代のころ、「人はなぜ自殺するのか」と思い、しばらく青木ヶ原の樹海に通っていたことがある。 樹海の中にはペットボトルなどいろいろなゴミが残されていて、ツーリストが置いていったものなのか、自殺者の遺留品なのかが一目でわかる。自殺者の遺留品は3メートル四方くらいのところにまとまっていて、1泊はしていたような気配がした。 脱いだ服、靴、ぬいぐるみ、酒の瓶、テレフォンカード、本。最後にマスターベーションをしたのか成人誌があったり、誰かとセックスをしたのか、使ったあとのコンドームが残されている。僕はそこに座り、「なんでここで死んだのかな」と考えた。 ● 樹海で出会った自殺志願者と コーヒーを飲みつつ話したこと 青木ヶ原で、自殺しようとしているおじさんと、ばったり会ったことがある。僕は山歩きの服だったが、50歳くらいのおじさんは革靴にスーツで、明らかに怯えていた。もしかすると、僕が登山用の大きいナイフを持っていたからかもしれない。 「今から死ぬのに、殺されるのは嫌なんだな」と妙な感心をしたのを覚えている。 「僕は自殺を止めるつもりも殺すつもりもない。話を聞いてもいいですか?」 そう言うと、おじさんは「いいですよ。詮索しないなら」と答えた。 僕はキャンプ道具でインスタントのコーヒーを入れ、おじさんと、20分くらい話をした。僕らが座っていたのはゴツゴツした溶岩質の地面にやわらかな苔が生えている場所で、ふわんとしてまるで心地いい極上のソファみたいだった。 おじさんが自殺しようと思った理由は、お金と病気だった。 そのときは「病気だったら治せばいいじゃん」なんて軽く考えていたけれど、自分がガンになると、当時のおじさんの気持ちがわかる。