石破首相が夢見る「国防軍」構想のおぼつかない中身、トランプ大統領返り咲きでかえって逆鱗に触れる恐れも
■ 「敵前逃亡は極刑」の軍法会議で兵員が激減の可能性 そもそも改憲草案の一丁目一番地は、自衛隊の国防軍への格上げと憲法での明文化だ。にもかかわらず軍隊にとって要の「軍法会議=特別裁判所」を、「特別裁判所ではなく審判所だ」と強弁すれば、国防軍の明文化そのものが論理的に成り立たなくなる。 現行憲法で否定する「戦力でも軍隊でもない」として存続する自衛隊と、結局のところ立場が同じで、何のために自衛隊を国防軍に格上げし憲法で明言するのか意味が分からなくなる。 イタリア、スペインなどでは憲法で特別裁判所設置を禁止するが、実際は存在するので問題はないとの指摘もあるが、そうなると憲法は画餅で「何でもOK」となり、もはや法治国家ではなくなってしまう。 審判所という名の軍法会議が適用されて憂慮されるのが、処罰の厳格化で巻き起こる「兵員不足」だ。 よく引き合いに出される「敵前逃亡」の場合、自衛隊では自衛隊法第122条で「7年以下の懲役または禁錮」だが、世界では極刑が常識で、死刑を存続する国は「死刑」、終身刑なら「終身刑」となる。 国防軍に昇格して今後活動範囲が広がれば、敵との武力衝突という場面が生じる可能性があるかもしれない。または苦戦する味方の米軍を助けたり、攻撃を受ける民間人を救出する作戦に出動したりするケースも増えるだろう。 だが石破氏が著書『国防軍とは何か』で強調するように、現行法のままなら「誰だって命は惜しい。いざという時、戦場から逃げ出しても懲役7年で済むなら、そちらをとるのが人間ではないですか」となり、軍隊は組織として成り立たなくなる。 このため同書で石破氏は〈国防軍になれば(兵士は)最高の栄誉が与えられる代わりに最高の規律が求められる。それは当然のことですね〉と、敵前逃亡は最高7年から「死刑」へと厳罰化すべきと示唆する。 だが心配なのが厳罰化で国防軍にとどまることを避けたり、入隊を希望する人が急減したりするリスクだろう。東日本大震災など大規模災害での献身的な活躍に感動し自衛隊入隊を目指す若者は多いが、軍隊の本懐は国防で武力による外敵の実力排除である。となれば戦闘は当然で、敵を殺したり逆に自分が死傷したりする危険性は高い。 一方で今後日本は少子高齢化がより進むため、どの企業・組織も若年人材の獲得に必死である。こうした状況で、「敵前逃亡が7年の懲役から死刑に厳罰化」した国防軍に、果たして何人の若者が門を叩こうとするのか甚だ悩ましい。 諸外国のように税金や年金、住宅、教育、交通機関、再就職など、あらゆる分野で特別待遇を設けてもリクルートは相当難しいだろう。最悪の場合、辞退者殺到で国防軍が組織として機能せず「開店休業」となる可能性もある。まさに国防の一大危機でこれでは本末転倒だ。