欧州が覚悟する地上軍ウクライナ派遣とプーチン核使用のリアリティー
落とし所のないナラティブの対立
以上を踏まえた上で、ここに来てプーチンが繰り返しイスタンブール・コミュニケに言及する意図をどう理解すべきか? まず、プーチンはロシアには同コミュニケをベースに停戦・和平交渉を再開する意向はあるが、ウクライナと西側がこれを拒否しているので、やむを得ず「特別軍事作戦」を継続しているのだ、とのメッセージを特に中国やグローバルサウスの国々に向けて送っているとみる。 また、実際に停戦・和平交渉を行うとすれば、現在、戦況が大きくロシアに有利に傾いていることから、その現実を踏まえ、ウクライナの中立化は大前提として、西側諸国がウクライナへの安全保障の供与、イスランブール・コミュニケ案でも合意に達しなかった非ナチ化や非武装化についても、より厳しい条件をウクライナ側に突き付けてくるだろう。 もちろん、ウクライナや西側諸国はロシアの条件を到底受け入れることは出来ないし、ロシア側もそのことは十分に理解している。前述のようにロシアはウクライナでの長期戦によってウクライナを消耗させることも狙っているのだ。 ロシアにとってウクライナでの戦いは、米国の世界支配に対する戦いでもある。その前面に掲げているのが新反植民地主義のナラティブだ。中国の習近平国家主席も2023年3月、訪露した際、「我々は100年に一度の世界の大変革を目の当たりにしている。一緒にこれを促進していこう」とプーチン大統領に語り掛けるなど、両者は酷似した歴史観、世界観の持ち主である。 一方、ウクライナは、ロシア・ソビエト帝国からの民族独立の戦いという主張で対抗することになる。ロシアもウクライナもこれらのナラティブを駆使してグローバルサウスにどれだけ響くかという戦いを繰り広げている。 このまま落とし所が見えないまま、ポスト米国大統領の2025年に突入していくことになりそうだ。
畔蒜 泰助(笹川平和財団主任研究員)