欧州が覚悟する地上軍ウクライナ派遣とプーチン核使用のリアリティー
ウクライナを崩壊させるわけにはいかない、が
ロシアはウクライナに武器弾薬が届き、軍事的に力を盛り返してくる前に、ハリキウの国境の北から攻勢をかけ占領地の拡大を図っている。 プーチンの大統領選挙の前後に、逆にウクライナ国境からロシア領内にロシア人の反政府武装勢力が侵入して一時的に村落を占拠し、またウクライナ軍が国境を越えてドローンなどでの攻撃を繰り返していたので、ロシア側は国境地帯に緩衝地帯をつくる必要があると主張していた。それが今回のハリキウへの攻勢に繋がっている。ハリキウ市自体まで攻め込むことは出来ないと思うが、可能な限り緩衝地帯を拡げるという作戦であろう。 ここに来ての最大の懸念はウクライナがどこまで耐えうるかであろう。欧州も米国もこの段階でウクライナへの支援を止めるという判断はないはずだ。 特に欧州は、フィンランド、スウェーデンが長年の中立政策を放棄してNATOに加盟するほど、ロシアのウクライナ侵攻に対する危機感は極めて高く、ウクライナを支えなければならないという意識はますます高まっている。 しかし、米国は、今回の支援予算の停滞は何とか乗り越えたが、この予算はどこまでも2024年度分についてのこと。来年度以降については、また改めて決めていかなければならない。しかも、今年11月には大統領選挙がある。ウクライナ支援に否定的で、今回の議会共和党の支援予算審議拒否の原動力となったトランプ前大統領が優勢と言われ、次の大統領に就任するかも知れない。そうなるとロシアと実際の戦闘を繰り広げているウクライナの国民の士気がどこまで保つのかが問題になってくる。
マクロン発言の意図するところ
仮に、ウクライナが戦線を維持できなくなり、崩れそうになったら何が起きるのか。 今年2月以来、フランスのマクロン大統領が繰り返し発言している欧米の地上部隊を、ウクライナに送るかどうかというのは、間違いなく問題になってくる。 この戦争が始まった頃から、プーチンは核使用を匂わしてきた。NATO軍のウクライナ戦争への介入を牽制する為だ。実際、米バイデン政権はウクライナでのロシア軍との過度なエスカレーションを回避することを最優先としており、結果としてウクライナへの武器供与のタイミングはことごとく遅れている。ここに来て、これまで躊躇してきた長射程の攻撃能力を持つミサイルシステムのウクライナへの供与に踏み切ったが、依然としてこれをロシア領内への攻撃に使用することは容認していない。これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ウクライナのパートナー達(=米国)」はロシアが戦争に敗北することを恐れており、ロシアが敗北しない程度にウクライナの勝利して欲しいのだ」と述べ、不満を表明している。 しかし、マクロン発言に見られるように、もはや、欧州にはウクライナを維持するためには直接的な軍事行動も必要という認識が生まれつつある。彼らにとってこの戦争は、もはや単にウクライナの戦争ではなく、欧州とロシアとの戦争になりつつあるのである。 ウクライナが保たなかった場合にどうするのか。ロシア勝利という事態を許容できるのか。ウクライナとの国境でロシア軍と対峙することになる前に、つまりウクライナが崩れる前に、出来るだけ支援して、そこで踏みとどまって貰う、と考えるのではないか。 プーチンが大統領就任時に改めて核の使用を示唆する発言を行ったのは、このよう欧州内の微妙な変化への牽制と見るべきだろう。プーチンからすると、ウクライナにNATO軍、あるいは欧州諸国の地上軍が投入されるとすれば、ロシアも相応の対応を取る用意があるとのメッセージだ。それだけ徐々に状況が煮詰まってきていることだと思う。 かなり危ない状況だ。NATO軍は、戦闘以外の形では、武器弾薬の支援から、兵員訓練まで直接、ウクライナに地上軍を投入する以外のことは既にほとんど全て行っている。2022年9月、ロシアがウクライナ軍にハルキウ州の占領地域を奪還されるなど、相当追い込まれたときにプーチンが核の使用を示唆したのと同じで、欧州では地上軍の投入に関する議論が始まっている。現在のウクライナの最大の問題はともかく兵士が少ないことだからだ。