5回撃たれたウクライナ兵、敵か味方かわらかぬドローンに救助求める 結果は?
ウクライナ東部アウジーウカの廃墟の西方で最近あった小競り合いで、ウクライナ兵のドミトロは5回撃たれて負傷した。出血が続き、このままでは長くもたないと悟った。 そこでいちかばちか、近くを飛んでいたドローン(無人機)に合図を送った。ウクライナ側のドローンかロシア側のドローンかはわからなかったが、味方のドローンなら救難チームに至急連絡してくれるはずだ。それに賭けた。 賭けは成功した。ドミトロが所属するウクライナ軍第47独立機械化旅団はテレグラムのチャンネルで、彼の過酷な体験を動画と文章で紹介している。本人も登場する動画は、エストニアのアナリスト、War Translatedが英語の字幕をつけてX(旧ツイッター)で共有してくれている。 ドミトロの部隊は、アウジーウカの南西に位置するクラスノホリウカ近辺とみられる陣地を離れて移動していたところ、ロシア側の銃撃を受けた。「わたしは銃弾を5発浴び、戦闘の任に堪えなくなりました」とドミトロは振り返っている。 仲間の兵士たちがどうなったのかは不明だ。ドミトロはひとり、血を流しながら樹林帯まで這っていき、自分で応急処置をした。しかし包帯や止血帯は、避けられないことを少しばかり遅らせるだけだった。「必死でした。だから、奇跡が起きて、見つけてもらうことに望みをかけたんです」 ロシアがウクライナで拡大して2年4カ月たつ戦争のほかの戦場と同じように、ドミトロが死に向かいつつ横たわっていた場所の上空にもドローンが飛び交っていた。「奇跡が起きました」と彼は話す。「1機のドローンが近づいてきたんです」 とはいえ、それが味方のドローンだと確かめるすべはなかった。もし近づいてきたのがロシア側の監視ドローンなら、自分の隠れている場所を教えればその操縦士からの要求で自爆型のFPV(一人称視点)ドローン、もしくは砲弾が飛んでくるおそれがあった。
第47機械化旅団が重宝しているあの車両が駆けつけた
ドミトロは賭けに出た。第47旅団は「彼は危険を覚悟で、助けを必要としているという合図を送り始めた」と説明している。近づいてきたドローンのカメラに向けて、ドミトロはまず自分の腕時計などを指さし、自分に残された時間が少ないことを伝えた。次に軍のIDカードを見せ、自分がロシア兵でないことを知らせた。 幸運にも、ドローンは味方のものだった。メッセージを受け取ったウクライナ軍のドローンチームからの連絡で、ドミトロの救助が手配された。彼にとってさらに幸運だったのは、第47旅団が迅速な救難任務に適した独自の車両を持っていることだった。 米国製のM2ブラッドレー歩兵戦闘車だ。第47旅団は、スピードが出て、比較的大人数を収容でき、十分に防護された装軌装甲車両であるM2を、ウクライナ軍で唯一運用している。戦闘のほか、包囲された歩兵分隊の救出や、前線の陣地からの負傷兵の後送にもこの車両をよく使っている。 ドローンに合図を送ってからわずか1時間後、ドミトロが身を潜める場所にM2が駆けつけた。兵士2人が素早く車外に出て、ドミトロを介助しながら収容した。車内では衛生兵が待機していたようだ。「運び出してもらい、応急処置を受けました」とドミトロは語っている。 M2はドミトロをウクライナ側の防御線内の安全な場所まで急いで送り届けた。そこで救急チームが対応を引き継いだのだろう。ドミトロによると「いまは病院で療養中」とのことだ。 この大胆な救出劇は、M2が第47旅団で愛用されている理由を再認識させる出来事にもなった。同時に、米国が5月に2週間で100両かそこらのM2をウクライナに追加供与した理由もあらためて思い起こさせた。ウクライナは以前に供与されていた200両のM2のうち40両ほどを失っており、新たに届く分でそれを補充できることになった。 ドミトロは思い切った行動に出て、九死に一生を得た。それには、機動性の高いM2も一役買った。
David Axe