“ガソリン税”は「法的正当性に疑問」? 税率を下げる「トリガー条項」が“凍結され続ける理由”とは【税理士解説】
「トリガー条項」が凍結され続けている「2つの理由」
今日、ガソリン価格は高騰し「1リットル174.8円」に達している(10月28日現在。資源エネルギー庁「石油製品価格調査」参照)。 これは政府が石油精製業者、石油輸入業者といった「燃料油元売り」に対し後述する補助金(燃料油価格激変緩和補助金)を支給している結果として値下げされた価格であり、本来の価格は「1リットル190.3円」となっている(出典:資源エネルギー庁HP)。 ここ数年、ロシアのウクライナ侵攻等による世界的な資源価格の高騰と急激な円安が相まって、ガソリン価格が高騰し、国民生活に重大な影響を与えている。にもかかわらず、トリガー条項が凍結され続けている理由は何か。黒瀧税理士は、2つの要因を挙げた。 黒瀧税理士:「第一の要因は、2011年3月に発生した東日本大震災です。復興のための財源を確保しなければならないという理由により、特別法が定められ、凍結されました(震災特例法44条参照)。 第二の要因は、ガソリン税が国・地方公共団体の財源として重要な役割を果たしていることです。 財務省によれば、2024年度のガソリン税の税収は2兆2339億円(揮発油税2兆180億円、地方揮発油税2159億円)と見込まれています(※)。 国も地方公共団体も、このような貴重な財源を失いたくないというのが本音だと考えられます」 ※参照:財務省「自動車関係諸税・エネルギー関係諸税(国税)の概要 なお、2023年11月に鈴木俊一財務大臣(当時)が、トリガー条項の凍結解除の是非について「『脱炭素に向けた国際的な潮流』や『国と地方の合計で1兆5000億円もの巨額の財源が必要となるということ』などさまざまな課題がある」と発言している。
「トリガー条項」凍結解除なら「補助金」の是非も問題となる
しかし、黒瀧税理士は、そのような既成事実があることと、トリガー条項の凍結の継続が法理論上正当か否かは「別の問題」であるという。 政府はトリガー条項の凍結を解除しない代わりに、燃料油元売りに補助金(燃料油価格激変緩和補助金)を支給することによって小売価格を抑える政策を選んだ。そして、補助金の制度は現在も施行されている。 黒瀧税理士:「燃料油元売りへの補助金の制度が2022年1月に施行されて以降、補助金の額がトリガー条項が発動した場合の減額幅(1リットルあたり25.1円)を大きく上回った月が何度もありました。 ガソリン価格の高騰が長期化すればするほど、国の財政への負荷が、トリガー条項を発動した場合よりも大きくなる可能性が考えられます。 しかも、そもそもこの補助金は緊急的な性格が強く、かつ、燃料油元売りという特定の業界・業種の事業者に特権を与えて優遇する効果があります。制度上、長期間行われることは想定されていないし、望ましいものでもありません。 ガソリン価格の高騰が長期化し、恒久化しつつあるとなれば、上記のような性格をもつ補助金ではなく、恒久的な制度として設けられた『トリガー条項』で対処するほうがより自然で、適切だということになるでしょう。 トリガー条項の凍結を解除するならば、補助金の制度をどうすべきかも検討されなければなりません。 もちろん、便宜上も、トリガー条項の発動と、補助金の制度は、いずれも国の財政に負荷を与えるものなので、その意味でも避けて通れない議論です」 現在、話題になっている「トリガー条項の凍結解除の是非」の問題については、もっぱら「財源」などの便宜上の観点から論じられる傾向がみられる。しかし、わが国では「法律なくして課税なし」という租税法律主義が採用されている。したがって、本来、財源などの既成事実を前提とした便宜上の議論だけでなく、法的側面・理論的側面からの検討も欠かせないはずである。 つまり、そもそもトリガー条項がなぜ設けられたのか、50年前に定められた「暫定税率」がなぜ今なお「特例税率」に形を変えて存続し続けているのか、法的根拠も含めて考える必要がある。 また、トリガー条項の凍結を解除する場合には、ガソリン価格を抑制するための燃料油元売りへの「補助金」の制度をどうするのか、という問題も避けて通ることができない。11月11日に召集される特別国会で、ガソリン税ないしトリガー条項についてどのような議論が行われることになるのか、注目される。
弁護士JP編集部