里中満智子「子宮筋腫、すい臓に腫瘍まで…5度の手術を乗り越えて。漫画家を続けられるのは、先輩たちのおかげ」
◆「不調だから少し休みなさい」 結局つい仕事を優先してしまい、更年期が近づきました。 気がつくと腹部が張っています。 「太っちゃった」とぼやいていたら、マッサージをしてくれた方が「違います。身体の中で何かが腫れて動いてますよ」。 慌てて病院に行くと、一つ、残していた卵巣が腫れて子宮と癒着しているというのです。 いよいよ、子宮も卵巣も全摘出を避けられなくなりました。 結局、妊娠することのないまま子宮も卵巣も切除することになりましたが、その代わり、長年にわたって私に「不調だから少し休みなさい」と、その都度知らせてくれていたような気がします。
◆先生たちのように 描き終えるまで32年もかかった『天上の虹』の終盤にさしかかった頃には、だるさとむくみがひどくなりました。 甲状腺の病気を疑いましたが、異常は見つかりません。徹底的に調べてもらうと、すい臓の中のすい管に、腫瘍があるという。即手術となりました。 最初はすい臓の全摘出も覚悟していましたが、手術の結果、ありがたいことに、すい臓は5分の1ほど残せました。今のところ、この小さなすい臓が頑張ってくれています。 近年は、めまいや動悸に悩まされています。すい臓の手術以降、仕事はぐんと減らしましたが、その最低限の仕事すら体調不良でなかなか進みません。あちこち調べて対処していますが、「経年劣化」というのが一番しっくりくる実情です。 人間、生きていればあちこち不調が出てきて当たり前です。こんなに体力が落ちるまで生きられるなんて、それだけでも実に幸運なことでしょう。 「私ももう長くないのかな」と不安になることもありますが、難病にめげず明るく働いている友人や、マンガ家の先輩たちのことを思えば甘えてなどいられません。 『アンパンマン』のやなせたかし先生は、94歳で亡くなる前日まで仕事をなさっていました。 2020年に91歳で他界した花村えい子先生も、最期までゲラのチェックをしておられたといいます。2022年に亡くなった藤子不二雄A先生も、最期まで現役でした。 さいとう・たかを先生に至っては、自分がいなくても『ゴルゴ13』の連載が続けられる仕組みをお作りになって旅立たれました。 私も先生たちのように、最期まで気力とやる気を失わずにいたいのです。 ※本稿は、『漫画を描くー凛としたヒロインは美しい』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
里中満智子
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