190SLとイメージが重なる後ろ姿 カイザー・ダーリン 161(2) おちょぼ口で今でも集客力は高い?
プロジェクト進展を遅らせた多くの課題
カイザー・ダーリン 161には、フェンダー内へスライドするポケットドア以外にも、悩ましい特徴があった。その1つが、ボディにFRPを採用したことだった。 【写真】フェンダーへ滑り込むドアは唯一? カイザー・ダーリン 161 同時期のロードスターたち (130枚) 7セクションの分割で成型され、コストは安く、コルベット並みの量産も可能ではあった。しかし実際は、金型の技術的な問題が立ちはだかった。 ヘッドライトの高さに関わる新しい規制も、プロジェクトの進展を滞らせた。ロードスターに相応しいエンジンの調達にも問題があり、発売は遅れた。ニューヨークとロサンゼルスでの発表時には多くの話題を集めたが、それを冷めさせるのに充分だった。 とどめを刺したのが価格。シートベルトが標準装備されたダーリン 161は、3668ドルで売られた。これは、直列6気筒のコルベットC1より145ドル高く、キャデラックやリンカーンに並ぶ数字だった。 それでも、ティントガラスにアクリル製サイドウインドウ、真っ白なステアリングホイール、シガーライター、ホワイトウォール・タイヤなどは標準。パワーは不足気味でも、目新しさを重視する人との契約を有利に運ぶ内容ともいえた。 レザーシートと、ボルト固定のワイヤーホイールはオプション。洗練された移動を約束するハードトップも、追加費用で選択できた。
オーナーを魅了したこのカタチ
自動車評論家には、スタイリングを好まない人もいた。石鹸皿のような、おちょぼ口のフロントグリルは話題の1つになった。スタイリングを描いたハワードは、フロントフェンダーに施された変更に不満を漏らしたそうだ。 英国からは、400ドル高価ながら、あらゆる面で優れていたジャガーXK120が上陸。 活気ある北米市場を求めて、MGやトライアンフも安価なスポーツカーを提供し始め、ダーリン 161にとっての逆風は強かった。 グレートブリテン島中部、メクスバラに住むビル・スミス氏は、古くからのアメリカ車マニア。これまで、シボレー・コルベットやマーキュリー・ターンパイク・クルーザー、ダッジ・ビジネスクーペなどをコレクションしてきた人物だ。 人とは違う新しいクルマを欲した時、彼はダーリン 161を探し始めた。「このクルマを初めて目にしたのは、1970年代のアメリカ車辞典でした。このカタチが、わたしを魅了したんですよね」。とスミスが微笑む。 クラシックカーとして価値は上昇傾向にあったが、コーチビルダーとしてレストアの経験を持ち、アメリカン・レストランのオーナーでもある彼は、本当に良い1台を時間をかけて選んだという。 「グーグルで検索したら、アメリカのミズーリ州にある自動車博物館からのほか、5台が売りに出されていました」。最終的に選んだのが、その博物館の1台だった。 彼が続ける。「2018年以来動いていなかったので、少し調整する必要はありましたね。最近は、ステアリングホイールをレストアしたところです」