なぜ女性ばかりが仕事と育児の両立を考えなくてはいけないのか?【清田隆之×武田砂鉄対談】
出産と育児を考える上で、必ず出てくる“仕事との両立”問題。そもそも“女性は家庭と仕事を両立させるべき”という圧はなぜ生じている? 清田隆之さんと武田砂鉄さん、二人の男性陣をお迎えし、多角的に考えてみた。前編では、女性が両立に悩む原因や男性の育休率について討論。 【画像】社会学者が解説!結婚・出産・育児にまつわるニュースワード
■女性が仕事と家庭の「両立」に悩む原因とは? ~メディアなどで完璧に両立する理想の母親像が描かれすぎ?~ 武田 今回は既婚者で子どものいない僕と、現在、双子の子育て真っ最中の清田さんがあれこれ考えようということなんです。まずは“家庭と仕事の両立”ってよく言うけれども、女性ばかりが悩まされているのではないかという問題。僕は今、女性ファッション誌のコラムをいくつか担当しているんですが、誌面を見ていると仕事も家事も育児も完璧にこなし、その上おしゃれにも気をつかい……という“理想の母親像”が過剰に演出されすぎている気がしています。こういう切り取り方が、“両立”のハードルを上げて、女性たちを追い込んでいるんじゃないかと思いますね。 清田 一方で父親側へのハードルはまだまだ低めに設定されているような気がします。男性向けのファッション誌で「仕事と子育ての両立ってどうしてる?」なんて企画は見たことないですし(笑)。家事と育児は女性がするもの、という社会通念は、暗黙のうちにメディアにも反映されているのかも。とはいえ仕事と家事の両立って、今の自分にとっても重大なテーマです。僕も女性向けメディアに出演することが多いし、情報収集のために育児雑誌なども読むのですが、書かれている意識の高い情報に触れ、「自分の子育てはこれでいいのか?」「合っているんだろうか?」と不安になることも……。母親たちが求められている育児のハードルの高さに驚きます。当然、自分も完璧に両立できているなんて胸を張って言えるわけじゃないけど、ある日知り合いのパパに子どもの体重について尋ねたら、かなりズレた数字を答えられたことがあって。その瞬間に「この人、もしや、育児は妻に任せっきり?」と疑念を抱いてしまいモヤモヤしたことが(笑)。 武田 清田さんが聞いたタイミングでたまたま体重の記憶があいまいになってしまった可能性もあるけど……。いや、でも、そんなわけないか。日々の成長を追っているわけではなさそう……。 清田 子どもの体重って、診察や予防接種など子育てのいろんなシーンで聞かれるから、具体的に答えられないと「コイツちゃんと育児してるのか?」と他人に思われてしまいやすいポイントで。ただもちろんその一点だけで「両立できてない人」と僕がジャッジすることはとてもじゃないけどできないですが。 ■「男性の育休率」とは ~平均2週間という数字。企業のイメージアップに使われているだけ?~ 武田 ひとまず「両立してます」「イクメンです」って言うだけなら誰でもできるという問題はありますよね。プレゼン次第でいくらでも演出できてしまう。その点、男性育休についてはどう思います? 男性の育休取得率は、まだ企業側が“数字を上げてなんぼ”、みたいな状況があるのではないかと思っています。それこそプレゼン的に「男性社員にも2週間ぐらいは育休を取らせておこうかな」と。でもなんだかんだいって半年、一年と長期間の休みを取られるのは経営陣も大歓迎ってわけではないじゃないですか。 清田 自分もそう感じます。 武田 清田家はどうしてるんですか? 清田 うちは僕も妻も個人事業主で。双子の子どもが生まれた当初は、義理の母親の協力も借りて子育てをしてたんです。そんな中でコロナ禍が始まり、高齢の義母は感染リスクが高いから手伝ってもらうわけにもいかず。夫婦二人の子育てで、完全に詰んだと感じた瞬間がありました。僕はレギュラー仕事を減らして育児の時間に充て……。収入は三分の一ぐらい減りました。でもここだけ切り取るとまたいい話になってしまいかねない。「清田、育児と仕事にめちゃ向き合ってるじゃん」みたいな。それも複雑でして……。 武田 男性は子育てや家事界隈で褒められやすい、という現象がありますからね。清田さんの両立の仕方も女性ならば「あ、そうだよね(仕事を減らして当然)」で終わらされてしまう可能性もある。また、“両立”を考えるときに必ず出てくる“時短”問題もあります。今、育児中の人たちってものすごいスケジュールを詰め込まざるを得ない。明け方に起き、仕事のメールを返し、家事をして保育園に送り、そこから出社とか。個人が捌ける量を超えたタスクを抱えている。本当に全部、やらなければならないのか?と立ち止まってほしいと思うのですが。 ▶【清田隆之×武田砂鉄〈後編〉】男性が考える、仕事と家庭を巡るモヤモヤ に続く 文筆家・桃山商事代表 清田隆之 1980年生まれ。東京都出身。「桃山商事」代表。これまで1200人以上の恋バナに耳を傾け、恋愛やジェンダーに関する書籍・コラムを執筆。著書に、『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』(双葉文庫)など。 ライター・ラジオパーソナリティ 武田砂鉄 1982年生まれ。東京都出身。出版社勤務ののち、’14年からフリーに。TBSラジオ『武田砂鉄のプレ金ナイト』のパーソナリティでもおなじみ。著書『マチズモを削り取れ』(集英社文庫)が発売中。 撮影/峠 雄三 取材・原文/石井絵里 撮影協力/AWABEES ※BAILA2024年8・9月合併号掲載