足を引っ張り合う笑いは「マジもったいねえ」ーー“チャラ男“EXITのチャラくない主張
ライブDVD、1000円の理由
お笑い界では「第七世代は上の世代の芸人とは価値観や考え方が違う」としばしば言われる。第七世代の芸人はお互いに対するライバル意識が薄く、横並びでテレビに出ても和気あいあいとしている。一昔前の芸人の感覚では考えられないことだった。 「今までそうやって芸人同士がバチバチしていたからお笑いが廃れてきたんじゃないですか。ミュージシャンとかほかの世界だったらみんな仲良くしているのに、芸人だけが足の引っ張り合いをずっとしていたと思うんですよ。そうやってお笑いが閉鎖的なものになっていって、好きな人しか見ないものになっていくのはマジもったいねえな、って。僕は年齢とか性別とか関係なくみんなに楽しんでもらいたいです」(兼近) 「ライブでお客さんに向かって手を振るとか、芸人らしくないことをやると『サムい』という風潮があったんですけど、俺らはあえていろんなことに手を出していったんです。俺らを入口としてお笑いに興味持ってくれる人が増えればいいな、と思ったんですよね」(りんたろー。) そんな信念を持つEXITは「ファンの目線に立つ」ことを徹底している。お笑いのDVDは通常なら3000円台だが、彼らは自分たちのライブDVDを税込1000円という驚異的な低価格で販売した。儲けを少なくしてでも、多くの人に気軽に買ってもらいたいと考えたからだ。
国民のマリオネットが作る、巨大な渦
2019年にはパシフィコ横浜で観客5000人を集めて単独ライブを行った。宙づりで登場したり、舞台上から派手に炎が上がったり、お笑いライブの常識を超えた演出の数々で観客を魅了した。 こうした型にはまらない活動が評判を呼び、彼らのファンは順調に増え続けている。ジャニーズ、LDH、2.5次元といったほかのジャンルのファンが流れてくるケースも多い。さまざまな文化圏から来たファンがEXITという巨大な渦に巻き込まれている。 「お笑い好きの人たちは、新しい界隈から来た人たちに優しくしてほしいなって思います。その人たちが種としていろんな芸人さんのところに飛んでいって、花を咲かせてくれると思うんですよね」(兼近) 「僕は盛り上がっていた頃の『ヨシモト∞ホール』(吉本興業が運営する渋谷の若手芸人向けの劇場)も見ていましたからね。あのムーブメントを取り戻すためには、僕らが起爆剤になるしかないと思うんですよ」(りんたろー。) 「俺らだけが盛り上がればいいんだったら、もっと違うやり方もできたんです。結局、芸人界隈のためにやっていることが俺らにも返ってくると思うんですよね」(兼近) 表向きの服装や活動内容だけを見ると「芸人らしくない」と言われることもあるが、EXITの2人は誰よりもお笑い界の未来のことを考えている。大好きなお笑いを盛り上げるために、彼らは自由に領域を横断しながら戦う。ときにはチャラ男として、ときには正統派漫才師として。EXITは「国民のマリオネット」として大衆の期待に応えながら、芸人の定義をアップデートし続けている。