JRで存続できても「切り離す」 行政が先に動いて“破格の応援”を獲得 富山2大ローカル線
だんだん三セク移管に傾いていった
富山県と沿線4市などは別の検討会を2023年7月に開始し、城端線・氷見線の利用促進には新型車両導入と両線の直通化、運行本数の増加、交通系ICカードへの対応促進に取り組むことが必要との意見で一致しました。そうした施策を実現するには「JR西日本任せでは難しく、三セク化が必要との判断に傾いた」(関係筋)と言います。 かくして2023年11月に発表された城端線・氷見線鉄道事業再構築実施計画案には「事業主体をJR西日本から、あいの風とやま鉄道へ変更する」との文言が盛り込まれました。あいの風とやま鉄道は、北陸新幹線の長野~金沢間の開業に伴って2015年3月にJR西日本から切り離された富山県内の並行在来線を引き継ぐため、富山県などが出資して設立された三セクです。 再構築事業の期間は2024年2月ごろから2034年3月末までとし、あいの風とやま鉄道への支援を含めた総事業費は382億円。財源としてJR西日本が150億円の拠出を決定します。JR東日本が山田線の一部だった宮古~釜石間(55.4km)を三セクの三陸鉄道へ移管した際に地元へ拠出した「協力金」30億円の5倍という高額です。JR西日本の長谷川一明社長は城端線・氷見線について「沿線自治体が重要なインフラとしての必要性を高く評価した」ことが背景にあると説明しました。 「攻めの三セク移管」へと舵を切った地元自治体の熱意にJR西日本が応えた格好で、富山県の新田八朗知事は「JR西日本からは総合的に勘案されて精いっぱいの判断をされたというふうに説明されましたが、その通りだと思います」と評価しました。 国からは128億円の補助を見込んでおり、富山県の担当者は「国の鉄道事業再構築事業の認定を受けて社会資本整備総合交付金などの支援制度を活用する」と解説します。他に富山県と沿線4市も負担します。
キハたちはどうなるの?
城端線・氷見線では、あいの風とやま鉄道へ移管する2029年ごろには新型車両34両をそろえる計画です。関係者は、現在運行しているキハ40・47は全て置き換えると明らかにしました。 新型車両は電気式気動車などを軸に検討しており、車両のデザインを工夫することで「利用者が路線に愛着が持てる『乗りたくなる路線』を目指す」との方針です。 朝と夕方の通勤・通学時間帯には列車本数の増加や、車両の増結によって混雑緩和を目指します。日中時間帯は現行の1時間当たり1往復程度から2本程度へ増やし、一定間隔で周期的に運行する「パターンダイヤ」の採用を検討しています。 こうした改善策により、再構築事業の最終年度の2033年度に両線の1日当たり利用者数を2022年度より約2400人増の1万2000人、赤字額は約3億8000万円減の7億600万円にする計画です。 JRの赤字ローカル線を巡って苦悩する沿線自治体も多い中で、城端線・氷見線の取り組みを地元関係者は「行政が先んじて検討を進めた事例として、他の地域にとってもモデルケースになる」と意気込みます。「攻めの三セク移管」の行方は広く注目されそうです。
大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)