センバツ高校野球 慶応、粘りあと一歩 九回同点、昨夏王者に互角 /神奈川
第95回記念選抜高校野球大会第4日の21日、慶応は第3試合で仙台育英(宮城)との初戦に臨み、1―2で惜敗した。九回に同点に追いつき、延長十回までもつれ込んだ接戦だった。昨夏の甲子園王者に互角の戦いを見せた選手たちに、開幕以来最多の2万4000人が入った観客席から惜しみない拍手が送られた。【田中綾乃、竹田直人】 雨が降りしきる中、保護者や卒業生ら約3000人でびっしりと埋まった三塁側アルプス席は熱気に包まれ、大声援で選手を後押しした。 先発の小宅雅己(2年)は鋭く落ちる球がさえ、四回まで相手に二塁を踏ませない好投を見せた。「応援の声がとても大きく、楽しんで投げられた」と振り返るように、五回に1点奪われるものの気落ちせず、直後に三振を奪って攻守交代。その後も追加点は許さなかった。スタンドで観戦していた母いづみさん(54)は「いつも以上の力が出ている」と試合を見守った。 打線は相手の継投に抑えられたが、応援指導部が「絶対逆転するぞ」と声をかけた九回、試合が動いた。先頭打者の延末藍太(3年)が右前打で出塁すると、続く渡辺憩(3年)の犠打で1死二塁のチャンスを迎えた。代打で登場した安達英輝(3年)は「素振りなど準備をしていたので緊張せず打席に立てた」。初球を振り抜き、同点タイムリーとすると、アルプス席の応援団はメガホンをたたいたり両手を突き上げたりするなど、この日一番の盛り上がりを見せた。母明可(さやか)さん(44)は「(適時打は)涙で見えなかったが、役に立ててよかった」と喜んだ。 延長タイブレークに突入した十回裏には1死満塁のピンチを迎え、相手打者の打球が左翼手の福井直睦(3年)の前に転がり「終わった」という声も漏れた。しかし、福井の送球で三塁走者を本塁で封殺に仕留めると、アルプス席は「福井ナイス」「肩いい!」と大盛り上がりを見せた。続く打者のタイムリーでサヨナラ負けを喫したが、昨夏の甲子園王者を相手に好試合を演じたナインを、応援団は「よくがんばった」「ありがとう」とたたえた。 ◇声振り絞りエール ○…三塁側アルプス席に詰めかけた3000人の大応援団をかけ声やリズムでリードしたのが、「応援三部」と呼ばれる応援指導部と吹奏楽部、系列校の慶応女子高バトン部だ。4年ぶりに声出し応援が解禁され、この日のために練習を積んできた。「次は1番からの好打順。絶対点を取りましょう」などと攻撃のたびにスタンドに呼びかけ、選手を鼓舞した。応援指導部は部員2人の小世帯だが、松村朝矩(とものり)さんは「絶対に勝たせます」と声を振り絞ってエールを送った。 ◇児童も笑顔で応援 ○…森林貴彦監督(49)が教壇に立つ慶応の系列小学校「慶応幼稚舎」の2年生児童約30人が甲子園に駆け付け、メガホンを持って応援した。森林監督が担任を受け持つクラスの児童で、雨の中でも元気よく森林監督のニックネーム「もりばー」を連呼。赤松東磨(とうま)さん(8)は「いつも優しくて、ちゃんとみんなの話を聞いてくれる。どんどん勝って、優勝してほしい」と笑顔で話した。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇けが越え聖地で好プレー 慶応・福井直睦(なおとき)左翼手(3年) 4番打者として臨んだ大舞台は無安打で本来の力は出せなかったが、十回裏1死満塁のピンチに左前にはじかれた打球を素早く送球。三塁走者を本塁で刺す好プレーを見せた。 守備には苦手意識が強く、外野も経験が浅い。しかし背走や腕の使い方、送球練習を積み、この日に臨んだ。チームの大黒柱となった今の姿からは想像もできないが、昨夏までは公式戦に出ることもままならない我慢の野球人生だった。 小学4年から野球を始めたが、中学時代の硬式野球チームでは「3軍」。慶応に入学後は膝や腰を痛め、1年間はティーバッティング練習ぐらいしかできない状態だった。 それでも大好きな野球のために、リハビリ先の病院でけがの予防方法を学び、打撃の知識を蓄えた。「普通の人ができない経験ができ、良いときを過ごせた」と振り返る。 昨秋から登録メンバー入りすると、どんな球にもバットを振る「全球打ち」練習で苦手だった外角も克服。下位打線から打順を上げた。 試合後、悔しさを残しながらも「諦めなかったから大舞台に立たせてもらった。夏の王者相手にタイブレークまで持ち込めたのは大きな財産になった」と充実感をにじませた。【田中綾乃】