杉咲花主演「朽ちないサクラ」登場人物の内面が深堀りされた映画版 原作のテーマをより明確にするための改変で謎解きのカタルシスも強まった!
推しが演じるあの役は、原作ではどんなふうに描かれてる? ドラマや映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は正義とは何かを問うこの映画だ! 【画像】杉咲花、萩原利久、安田顕ら出演 「朽ちないサクラ」人物相関図を見る
■杉咲花・主演! 「朽ちないサクラ」(カルチュア・パブリッシャーズ・2024)
桜だあ! というのが映画の第一印象。原作では桜はあまりフィーチャーされないんだけど(タイトルなのに? その理由は読めば/観ればわかる)映画では事件の始まりのときに固いつぼみだった桜が、ラストでは満開になっているのだ。時間の経過を表す以外にも、そこに込められた複数の意図を感じることができて、なるほどこれは映像ならではだなあ。 ってことでまずはあらすじから。原作は柚月裕子の同名小説『朽ちないサクラ』(徳間文庫)。2015年に刊行された警察小説である。 平井中央署の生活安全課が被害届の受理を先延ばしにした末に起きたストーカー殺人。ところが受理しなかった理由が署員の慰安旅行のためだったと新聞にスクープされた。市民からの苦情が殺到する県警広報広聴課の職員・森口泉は、その記事が親友・津村千佳の務める新聞社のものだったことに疑念を抱く。自分がうっかり話してしまい、固く口止めした慰安旅行のことを、千佳が記事にしたのではないか? 直接会って問いただすが、千佳は記事はデスクが書いたもので自分ではない、ネタ元は極秘扱いでわからないと主張する。それでも千佳を信じられない泉に向かって千佳は「この件には、なにか裏があるような気がする」「調べてみる価値はある」「泉から押された裏切り者の烙印を、必ず消してみせる」と宣言した。 その1週間後、千佳の水死体が発見される。他殺と断定され、捜査が始まった。慰安旅行の一件のネタ元を探っていた千佳がなぜ殺されなくてはならなかったのか。喧嘩別れのようになってしまった最後の逢瀬を悔いた泉は、親友の無念を晴らしたいと自ら調査に乗り出した──。 というのが原作・映画に共通する導入部だ。映画もストーリーの大枠は原作通りに進むが、印象はやや異なる。原作が警察内部のさまざまなできごとや捜査の過程を多面的に描いた硬派な捜査小説であるのに対し、映画は捜査過程をややシンプルにし、代わりに主要登場人物の内面や背景を膨らませて抒情的な場面を追加していた。また、詳しくは後述するが、謎解きにつながる伏線(これが巧妙! )が映画では追加されていた。 ところがそのようなアプローチの違いがあるにもかかわらず、「正義の対立」という原作のテーマがしっかり映画の核として存在していたのだ。映像化に際して改変はしても原作の芯は揺るがせにしない、原作に対するリスペクトが感じられる映像化と言っていい。
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