杉咲花主演「朽ちないサクラ」登場人物の内面が深堀りされた映画版 原作のテーマをより明確にするための改変で謎解きのカタルシスも強まった!
■原作と映画、ここが違う!
細かい違いから挙げるなら、まずは舞台だろう。原作では「東北地方の米崎県」という架空の県が舞台だったが、映画では愛知県でロケが行われたためか、愛知県警という設定になっていた。そして事件の起きる時期も、映画は原作より半月ほど早い。これは冒頭に書いたように桜の開花に合わせるためと思われる。ストーカー殺人の犯人、安西(映画では宮部)の実家が神社だというのも映画オリジナルの設定だ。 ストーカーの被害届の受理を先延ばしにした平井中央警察署生活安全課・辺見にまつわる事情も改変されていた。映画では坂東巳之助さん演じる辺見は、かつて職員だった百瀬と恋愛関係にあったが、とある事情で別れを切り出したという設定になっている。だが原作では百瀬の相手は辺見ではない。さらに原作の辺見はとても誠実な捜査員で、そもそも被害届の受理を拒むような人物ではないことがつぶさに描写される。つまりそこに、なぜ辺見が被害届を受理しなかったのかという謎がひとつ存在するのだ。 他にも、捜査の過程での試行錯誤が一部カットされるなど、捜査の進み具合は映画の方がややシンプルになっている。その代わり、映画で加えられた要素がいくつかある。ひとつは泉(杉咲花)の上司、富樫(安田顕)の過去。ふたつめは原作に存在しないおみくじの手がかり。そして最後は、具体的にはここには書けない、捜査一課長・梶山(豊原功補)のあるセリフである。この3箇所の改変が、めちゃくちゃ巧い! 捜査の途中で原作にはないおみくじの話が出てきたとき、何だそれ、と思った。犯人の実家を神社に変更したことも、最初は「桜の名所をロケ地に使いたいのね」くらいに思っていた(ロケ地の岡崎市八柱神社は家康の正室・築山御前の首塚があるので歴史好きはGOだ)。ところがこのおみくじ&神社という新たな要素の使い方が絶品なのである。特におみくじに書かれた……ううう、言いたい。だが言えない。脚本家さん、よくぞここまでピッタリな××を思いついたな! そこに梶山一課長のセリフだ。私は原作を先に読んでいたので、ある場面での梶山の原作にはないセリフを聞いたとき「わあ、ここにこんなヒント入れてきた!」と、思わず前のめりになった。この神社、おみくじ、梶山のセリフという一連の改変は、謎解きミステリとしてのカタルシスをぐっと強める効果がある。
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