まさかの同時ピットに「笑いそうになった」。ミス・コミュニケーションにタイムロス、脱水症状も発生【スーパーフォーミュラ第5戦事件簿】
8月25日に栃木県のモビリティリゾートもてぎで行われた、全日本スーパーフォーミュラ選手権第5戦決勝は、ポールポジションから山下健太(KONDO RACING)が前半をリードしたが、各車のルーティンピットを挟んだ後半ではDOCOMO TEAM DANDELION RACINGの牧野任祐と太田格之進によるトップ争いが白熱。互いに一歩も譲らないバトルを展開し観客を沸かせたが、首位で最終ラップに突入する直前で太田の車両にトラブルが発生し、牧野が勝利を手にすることとなった。 【写真】ドリンクが出ないというトラブルに見舞われた福住仁嶺(Kids com Team KCMG) 決勝中は、この太田以外にも、さまざまな陣営でハード/ソフト両面から、いくつかの思いがけぬ事態が生じていた。 ■追突を受け、好フィーリングを失った坪井 スタート直後、背後の岩佐歩夢(TEAM MUGEN)と接触したのは坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)だ。 「右後ろから、『クルマが浮くんじゃないか』というくらい思いっきり追突されたので『終わったな』と思いました。足が折れたか曲がったかして、真っ直ぐ走れなくなると思ったので。ギリギリスピンはしなくて済みましたし、僕の左側にいた人たちも、気づいて避けてくれたと思うので感謝したいです」 なんとかコースに踏みとどまった坪井だが、マシンは「めちゃくちゃ調子が良かった」という日曜朝のフリー走行からは、ほど遠い状態となってしまったという。 「一応、真っ直ぐは走れているし、壊れている様子はなかったのでそのまま走りましたけど、アライメントだったり、少なからず細かい部分は狂っていたという状況で、朝のバランスからはズレてしまった感じでした。1コーナーで終わってしまったと思うとちょっと残念な部分はありましたが、そのなかでもなんとか耐えて走ることができて、2スティント目はフレッシュタイヤとクリーンエアで結構ペースを上げることができました」と、坪井はリカバリーできたことには満足感を示した。 「すべての流れが悪いレースのなかでの5位は、僕たちにとってはともて大きかった。チャンピオンシップを考えても、首の皮一枚つながったと思います」 なお、スタート直後の岩佐との接触に関しては、『レーシングアクシデント』との判定が下されている。 ■阪口を襲った“三重苦” レース中盤、4コーナー先にマシンを止めてしまったのは阪口晴南(VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)だった。このところ阪口の38号車に続発してしまっているスロットル関連のトラブルが、またしても発生してしまったという。 「踏み始めで、スロットルが開かない状態になりました。その前も、シフトダウン時のブリッピングもしていなかったですね」と阪口。 「最近のトラブルと似たようなところなので、ちょっとヤバいですね。当然、原因は振り返って把握して、それを見直して臨んでいるのですが。厳しい見方をすると2度あることは3度あると思うので、同じような解決の仕方でいいのかというのは、このあと強く話したいと思っています。(富士大会まで)インターバルも空くので、やれることはやらないと……同じ対処だと同じことが起こってしまうのでは、と僕は思っています」 じつは阪口、このストップ以前にも思いがけぬ事態に見舞われていた。 「無線の交信で……僕の伝えたかったことと、チームが了解したことが違っていたかな、というのがありまして」と阪口。38号車は11周目にルーティンのピット作業を行なっているが、阪口としては別の意図を持ってドライブしていたという。ターゲットは前方を走る小高一斗(KONDO RACING)だった。 小高と逆の作戦を取りたかった阪口は「『一斗と逆で行かせてください』と言ったんです。でもそれがうまく伝わっていなかったようで、『ピットピット!』と言われたので入ったら、一斗も一緒にピットインしたので笑いそうになりました(苦笑)」 さらにピット作業でもロスがあり、「練習から不安な感じがあったのですが、今回も出てしまって……。39号車にもあったので、チームとしてしっかりしないと」と、阪口は表情を引き締めていた。 ■事前に水分控えたのに……ドリンクが出ない! 第4戦富士でポールポジションから優位にレースを展開していながら、ピット作業でのロスにより優勝の機会を失ってしまっていた福住仁嶺(Kids com Team KCMG)は、今回は10番手と中団スタートながら「トップ6に入れればいいな」とポジションアップに期待を寄せながらレースを展開していた。 しかしまたしてもピット作業で悲劇が。チームとしても作業スタッフを変更したりと、最善を尽くしてきたが、タイムロスが発生してしまう。 これに関して順位を争っていた山本尚貴(PONOS NAKAJIMA RACING)陣営は、前戦までの経緯から『KCMGと同時ピットに入れば、前に出られる』と踏んでおり、あえて同じ周のピットインを企図。そしてその思惑どおり、山本が福住を逆転する形となった。 「その後のペースも思ったよりも上がらなかった印象で、そこも改善しないといけません。あと、ピット作業を失敗したあとの無線のやりとりも良くなかったと思うし、いろいろと改善点はありますね。課題が多いなと思いました」と福住。 そして福住車にはこのピットロスとは別に、ドリンクが出ないという、フィジカル面にダメージの及ぶ“事件”も発生していた。 福住は汗をかきやすい体質で、レース中のドリンク補給は必須。そしてレース中に飲むことを前提に、乗り込む前は「お腹もいっぱいになりたくないし、飲みすぎないように」しているのだという。 そこへ来て高温多湿のなかでドリンクを摂れないレースとなり、「まぁまぁ辛かったです。最後の5周くらい、左手の小指がめちゃくちゃ痺れてきてしまって。レース終わった後も歩いているだけでつりそうになる感じだったので……」と最後は脱水症状に見舞われるなかでの9位入賞となった。 [オートスポーツweb 2024年08月25日]