羽生結弦「運命は本当にすごくもろくて」 新単独ショー『エコーズ・オブ・ライフ』で表現する哲学
【命をテーマに新たな挑戦】 羽生結弦が手掛けるアイスショーの全国ツアー『ECHOES OF LIFE(エコーズ・オブ・ライフ』が、自身の30歳の誕生日である12月7日、さいたまスーパーアリーナで開幕した。 【新着・写真】羽生結弦『エコーズ・オブ・ライフ』フォトギャラリー ショーは「命」と「生きること」がテーマのストーリー。羽生はこう説明する。 「もともと自分は小さい頃から生命倫理をいろいろ考えたり、大学で履修したりしていく中で、『生きる』ということの哲学についてすごく興味を持っていました。そこからずっと自分の中でぐるぐるとしていた思考であったり、理論であったり、そういったものを勉強し直して、皆さんの中にも、この世の中だからこそ生きるということについての、皆さんなりの答えが出せるような、哲学ができるような公演にしたいと思って『エコーズ・オブ・ライフ』を綴りました」 ほぼ新作ばかりの演目の構成で綴る物語は、これまでの2回のショーをさらに進化させた形だ。 「30歳というと自分の中では、"フィギュアスケート年齢"としては、劣化していくんだろうなという漠然としたイメージがあったんですけど、たとえば、野球やサッカーなどに置き換えて考えてみたら、これからやっと経験や感覚、技術などに脂が乗ってくる時期だと思うので。本当に自分自身の未来に希望を持って、絶対にチャンスをつかむんだという気持ちを常に持ちながら、練習にもトレーニングにも、本番にも臨みたいなと思います」 羽生がそう口にするように、新たな挑戦を見せてくれた。
【ピアノ曲で表現する哲学】 岸辺に打ち上げられた"生活の残骸"のような風景が演出されたリンク。何者かによって、生命が何ひとつない荒廃した地上に生み出された主人公の「Nova」。言葉が音になって体に入り込む彼は、音に導かれて命の意味を探す。 「小さい頃から、いろいろなものが音として聞こえてきたタイプだったんです。絶対音感があるというのではなく、なんとなくメロディー的な感覚で聞こえてくるような感じがしていて。そういった自分の経験だったり、また、フィクションとして描く中で、"この子"にどういう能力を持たせようかと考えた時、自分が表現のトレーニングとしてやっている言葉の抑揚であったりとか、意味であったりを表現するということを物語の中に入れ込んで。哲学が音として体に入ってくる。そして、その哲学が音楽になってプログラムが出来上がるみたいなことを発想しました」 ベンチの上に置かれていた日記を手に取ると、誰だかわからない者たちの憎悪や希望などのさまざまな思いを綴る文字が、音になってNovaに襲いかかってくる。 『ピアノコレクション』と題された短い5曲で構成したプログラムでは、それぞれの言葉や事象に翻弄されながらも戦い続ける。 「新プログラムを作る中で、クラシカルなものをやりたい気持ちがあったのと、今回は哲学をテーマにしていたのでピアノの旋律などの気持ちが凛とするような曲を多めに選んでいます。そのストーリーを描く中で、ここは戦いたいところだ、ここは芯を持つべきところだ、ここは言葉をそのまま使いたいところだ、などといろいろ考えた中で、選曲にこだわったという感じです」 空中に吊り下ろされた大きな白い布のスクリーンと氷上。その白一色の世界に、音符となって流れ込む音の激流の中で心の葛藤を表現する。 そして見つけた「運命を信じたい」という思い。氷上にい続けた羽生はそのまま『バラード第1番ト短調』を、4回転サルコウや4回転トーループ、トリプルアクセルを入れて舞う。白の世界で滑る彼の周りには、プロジェクションマッピングで表現された、細い糸になって絡み合う"運命たち"が、その思いを祝福するように舞って荘厳な世界を作り出す。 「一番悩んだのは、ピアノのクラシック曲の連続のところから『バラード第1番』にいくというのが、今までやったことのない、リンクから一回もはけないで30秒間ずつくらいの間隔でずっとプログラムを演じ続けるところでした。あそこはピアノの清塚信也さんと一緒にクラシックのことも勉強し、どういう意味をこめて弾くのか。また振り付けを頼んでいたジェフリー・バトルさんとも、こんなイメージで滑りたいと話し合い、本当に綿密に計算しながら作りました」 羽生がそう語る十数分間続くプログラムだ。