「まんが道」「バクマン。」「これ描いて死ね」 昭和と令和「漫画家たちの生態」はどう変わったか
日本が世界に誇る文化である「マンガ」。産業としても大きく発展し、今や単行本だけで月1000点以上が刊行されています。昔と違って、過去の作品を含む多くの作品が電子でも読める。となると逆に、どれを読んだらいいかわからない、という方も多いのでは? そこで当連載では、令和の話題作と併せて読みたい昭和、平成の名作をテーマごとにセレクト。手塚治虫文化賞選考委員も務めるマンガ解説者の南信長さんが解説します。 この夏、劇場アニメが大ヒットした『ルックバック』。原作は『チェンソーマン』で知られる藤本タツキの同名マンガで、2021年にウェブ誌「ジャンプ+」で発表されるや話題騒然となった。マンガを描くことでつながった2人の少女の運命のドラマは、トリッキーな構成と相まって創作の初期衝動を鮮やかに浮かび上がらせた。 【画像】藤子不二雄(A)と藤子・F・不二雄の2人をモデルとした自伝的作品『まんが道』
こうした漫画家(あるいは漫画家志望者)を主人公とした“漫画家マンガ”は、2000年代以降爆発的に増えている。その歴史については拙著『漫画家の自画像』(左右社/2021年)で詳述したが、自分が身をもって知っている世界を情熱と愛情を込めて描くだけに名作が多い。そんななか、昭和を代表する漫画家マンガの金字塔が、藤子不二雄(A)(正しい表記は○にA)『まんが道』(1970年~88年にかけて断続的に連載)だ。
■昭和の名作『まんが道』 『まんが道』は、富山の小学校で出会った満賀道雄(まが・みちお)と才野茂(さいの・しげる)が、漫画家をめざして奮闘する物語。言うまでもなく、藤子不二雄(A)(安孫子素雄=満賀)と藤子・F・不二雄(藤本弘=才野)の2人をモデルとした自伝的作品である。もしかしたら今の若い人は知らないかもしれないが、2人は1988年にコンビ解消するまで「藤子不二雄」のペンネームで活動していた。この“2人で1人”パターンを踏襲する漫画家マンガは多く、『ルックバック』もそのひとつだ。
漫画家デビュー後も富山で活動していた2人は、満賀が高校卒業後に勤めていた新聞社を退職したのを機に上京する。しかし、最初に住むのは両国にある満賀の親戚の家で、かの有名な「トキワ荘」に引っ越すのは約9カ月後。〈『まんが道』=トキワ荘〉のイメージがあるが、トキワ荘が舞台の中心となるのは物語全体の半分以上を過ぎてからなのだ。 トキワ荘の部屋は四畳半だが、両国の部屋は二畳だったので倍以上。「四畳半って広いなあ!」「なんせ足を思いっきりのばしても壁につかないからなあ!」という広々とした(? )部屋で、2人は思う存分マンガを描く。新雑誌『ぼくら』の連載、『幼年クラブ』の別冊ふろく62ページ、『少女クラブ』の別冊ふろく64ページ、『漫画王』の休載穴埋め4ページと、仕事も次々舞い込んでくる。が、それは2人のキャパを超えるものだった。