中森明菜が「陰」なら松田聖子が「陽」…音楽家・武部聡志が明かす「最も優れた女性歌手の名前」
名曲を誕生させた運命的な巡り合わせ
――この頃は歌入れの前にアレンジ作業をしていたそうですが、武部さんはアレンジャーとしてどのような点を意識していたんですか? 歌詞の世界観をどうサウンド化をするかにかなり集中しました。例えば、〈朝陽が水平線から 光の矢を放ち〉というサビの部分はマーチングのようなスネアドラムを入れて、夜明けの光が差しこむ希望に満ちた情景を感じられるよう工夫しています。 キャッチーなイントロにしたい、かっこいいサウンドにしたい。当時の僕はまだ20代でしたからこういった邪念もあるわけですよ(笑)。 でも隆さんの歌詞をいざ目の当たりにすると、これを音で描かなきゃという気持ちになる。別に本人から直接教えてもらったわけではなく、隆さんの言葉の力がそうさせるんですよね。 ――聖子さんの歌い方もそれまでの曲とはすこし違う気がします。 聖子さんの歌が入ったバージョンを初めて聴いたとき、曲のストーリーをきちんとプランニングした上で歌っていたのでかなり驚きました。単に明るくのびやかに歌うのではなく、絶妙な抑揚を効かせて歌っていたんです。 Aメロは抑えめで、サビではまるで世界が開けるように声がスーッと伸びていく。守りたい存在ができたがゆえに、母性的な優しさ、包容力みたいなものも歌に込められていたんじゃないかと思います。 ――ライフステージが大きく変わった聖子さん、そのタイミングを逃さなかった松本隆さん、そしてアレンジャーとして上り調子だった武部さん。この3人が揃ったからこその傑作ですね。 名曲が生まれるときって、タイミングも大事なんだと思います。うまいこと歯車が噛み合った瞬間、運命的に世に生まれるというか。すこしでもタイミングが違っていたら、ヒットしなかった曲というのもたくさんあるでしょうね。 ヘアメイク/下田英里 カメラマン/西崎進也 【後編】『斉藤由貴は「不安定」だけど「プロの可能性を感じた」…音楽家・武部聡志が語るプロだけに漂う雰囲気』では、斉藤由貴さんと約40年来付き合い続けてきた武部聡志さんが、彼女の歌の魅力を語る。
現代ビジネス編集部