中森明菜が「陰」なら松田聖子が「陽」…音楽家・武部聡志が明かす「最も優れた女性歌手の名前」
武部聡志さんは、日本の音楽シーンを50年近く支えてきたレジェンドのひとりだ。 音楽監督、作曲家、編曲家、プロデューサー……。さまざまな立場で仕事を共にしてきたミュージシャンの数は、実に3000人。日本で一番多くの歌い手と共演した音楽家とも言われている。 【写真】輝き続ける斉藤由貴の特別撮り下ろし なかでもユーミンこと、松任谷由実との関係は深く、コンサートの音楽監督を任されて40年以上が経つ。ほかにも、携わったアーティストの顔ぶれは華やかだ。アレンジャーとしては松田聖子や斉藤由貴、薬師丸ひろ子の曲を、プロデューサーとしては一青窈や平井堅、今井美樹の曲を手がけている。 『ユーミンの歌声はなぜ心を揺さぶるのか』を11月に上梓した武部さんに、日本の優れた歌い手たちの魅力を解説してもらった。
歌にただ身を委ねるだけでうまくいく
──前編では、日本で最も優れた男性ボーカリストを伺いました。では、女性ボーカリストだと誰になりますか? MISIAさんですね。彼女を選んだ理由は玉置(浩二)と同じです。5オクターブもある広い音域や裏声のさらに上の音域を出すホイッスル・ボイスなど突出したボーカルテクニックに加え、凄まじい表現力を持っている。 MISIAさんがユーミン(松任谷由実)と共演した、2019年の東京国際フォーラムのステージは衝撃的でした。私はバックバンドのひとりとしてピアノを演奏していたんですが、アンコールで彼女が『Everything』を歌い始めたとき、震えましたからね。 余計なことを考えず、自由に、漂うように弾けたというんでしょうか。歌にただ身を委ねるだけですべてがうまくいってしまう。オーラのようなもので包み込まれて、ステージ全体のパフォーマンスが引っ張り上げられるような不思議な感覚でした。本当に優れたアーティストじゃないと、絶対にこうはなりません。 ――歌に対する強烈な想いみたいなものが、そうさせるんですかね? でしょうね。おそくら彼女が持つ「この歌を届けたい」「みんなと一緒に音を奏でたい」といったソウルが、この一体感を生み出しているんだと思います。単なるテクニックを超えた天性のものです。 特に、能登半島復興支援で現地を訪れたMISIAさんのパフォーマンスでは、その部分がよく表れていましたよね。『アイノカタチ』というバラードをアカペラで歌ったんですが、単に歌い上げるのではなく、曲に込められた想いを会場の被災した方々ひとりひとりに届けている感じがしたんですよね。贈り物を手渡すような温かみがあって、本当に素晴らしかった。