すぐパニックになる人の特徴は? 「ワーキングメモリ」の問題
臨機応変が難しい
容量がいっぱいになっちゃたんですね。 「どういうことですか?」 学校に通う生徒だった頃、家で宿題や予習・復習をしているときに、テレビがついていたり家族がしゃべったりしていると、その話し声が気になって集中できないっていうことがありませんでしたか? 「あっ、それはよくありましたよ」 そうでしょう。教科書を読んでいるつもりでも、いつの間にか話し声に耳を傾けていて、教科書の内容が上の空になっていたり。 「そうでした。そんなことがよくありましたよ。それが、今回のケースと関係あるんですか?」 ええ。ワーキングメモリの容量が小さい人の場合、それに似たようなことがしょっちゅう起こっているのだと考えられます。その方について、他にも気になることはありますか? 「そうですね……実は、彼女だけではありませんが、接客の仕事に専念するだけでなく、別の部署への異動もあり得るので、そのためのトレーニングとして、販売現場の実情や課題について、他部署の人たちを前に説明する場をときどき与えているんです。いわゆるプレゼンみたいなものです。その際、用意してきた原稿を見ながら、パワーポイントの図解の説明をするのは、割とスムーズにできるんです。でも、説明終了後の質疑応答になると、まるで別人のようにパニックになってしまうんです。落ち着いて考えれば簡単に答えられるような質問でも、慌ててしまって、うまく答えられないんです」 前もって準備してきた原稿をもとに説明することはできても、その場で質問されるとパニックになって、どんなに簡単な質問でもうまく対応できなくなってしまう。 「その通りです。決して想定外の内容についての質問じゃなくて、説明した内容を確認する程度の質問でも、浮き足立って、うまく対応できないんです。 そこにもワーキングメモリの容量の問題が関係してそうですね。 このようなやり取りの後、その事例で問題となりそうなワーキングメモリの容量について説明し、今後の対策について話し合った。その概要は、以下のようであった。 問題となっている人物のケースでは、周囲の人は、なぜもっと柔軟に対応ができないのかと不思議に思うだろうし、いくらアドバイスしても効果がないことにいら立つかもしれない。 このケースでは、ワーキングメモリの容量が小さいことが関係している可能性がある。 ワーキングメモリというのは、ごく短時間、情報を記憶しながら、同時に何らかの課題遂行などの処理をする知的機能のことである。暗算をするときの頭の働きを思い浮かべれば分かりやすい。数字を記憶しつつ、同時に計算処理をしなければならない。その際、ワーキングメモリがフル稼働している。 先ほどの対話でも例示したように、聞こえてくる話し声が気になって宿題に集中できず、計算間違えや書き間違いをした経験がある人も少なくないのではないか。そのようなケースでは、宿題に割くべきワーキングメモリの一部が話し声に聞き入ることに費やされてしまったわけだ。