昨年の中国鋼材輸出9000万トン超、アジア市場へ影響度増す。「中央」と「地方」で減産指令に温度差
先週、日本の経済界の合同訪中団が中国を訪問。李強首相をはじめ関係省庁の幹部と会談した。訪中団の団長を務めた日中経協の進藤孝生会長(日本製鉄会長)は、国家発展改革委員会との会談で、「(中国が)産業構造改革に取り組んでいることは承知しているが、新たな能力増強がもたらす過剰生産問題は、鉄鋼をはじめとした国際マーケットに混乱をもたらす事態が生じている」と述べ、鉄鋼に言及しつつ、一層の構造改善を進めてほしいと要望した。 中国の粗鋼生産量は2020年に過去最高の10億6千万トンを記録したが、その後、経済成長のスピードが鈍化する中で「20年ピーク説」が有力視された。実際、21年以降は20年実績に届いておらず、20年ピーク説は依然有効だ。ただ、21~23年は年間10億トンを超える水準が続いており、内需が漸減する中で過剰感が再び台頭しているのも事実。これが輸出ドライブにつながっているとみられており、進藤氏の発言もこうした現状を念頭に置いたものといえる。 進藤氏の発言に対し、発改委の文華副司長は「鉄鋼ではすでに1・5億トンの能力を削減した」と説明。鉄鋼業の構造改革はすでに完了したという従来の説明を繰り返すにとどめた。 中国は、過剰能力の削減が一巡したとする一方で、温暖化対策や環境保全を理由に、昨年、22年実績を超えてはいけないとする減産指令を発出した。しかし、23年は前の年の実績をわずかに上回ったとみられ、結果として減産指令が浸透していない実態が浮き彫りになった。 なぜ減産が進まないのか。市場関係者によると、経済成長を求められている地方の事情が影響しているという。経済成長を求められている「地方」にとって、鉄鋼業の活動水準は無視できない指標だ。一方で経済成長と鉄鋼減産を両立させるのは難しい。結果として中央の指令が地方に行き渡らないことにつながっているとの見方だ。 高レベルの生産が続く中で、中国鉄鋼メーカーの収益は悪化している。こうした現状に対し、中国国内でも減産の必要性が指摘されているとはいえ、中国鉄鋼業が減産に大きく舵を切るかどうかは依然不透明だ。 中国の23年のGDP成長率は5・2%と、政府目標の「5%前後」を達成した。24年も同程度の成長を目指すとみられ、地方政府への圧力は継続する可能性が濃厚。鉄鋼メーカーサイドでは、収益悪化の中で、固定費負担を軽減しようと、減産に後ろ向きな姿勢が散見される。 そもそも減産指令に従わなくても罰則はないのが現状。不動産不況に端を発した建築向け需要の低迷が長引いた場合、減産ではなく輸出に走る動きが今年も続く可能性は否定できず、国内関係者の間でも楽観的な見方は少ない。低迷が続くアジアの鋼材市場が回復に向かうかどうか。引き続き中国鉄鋼業の動向がカギを握りそうだ。