土佐犬は「トサイヌ」か「トサケン」か?アナウンサーたちが議論、国と県も混乱
文化庁も混乱「県に確認させてほしい」
その後、文化庁文化財第2課にも取材すると新たな事実が判明した。HPには「トサケン」と記載しているものの、内部資料には「トサイヌ」と表記されているというのだ。 担当者は「県に確認させてほしい」として回答を保留。その日のうちに「『トサイヌ』『トサケン』どちらも間違いではない」と県の見解に合わせる形で回答した。「土佐犬」の読み方をめぐって、文化庁にも県にも混乱が垣間見えた。
戦前からの資料が引き継がれず
そもそも、土佐犬が国の天然記念物に指定されたのは1937年(昭和12年)、戦前のこと。県の担当者には、当時の資料がきちんと引き継がれていないため、HPになぜ「トサイヌ」と記載されたか、経緯をたどるのは難しいと言う。
広辞苑には “別の意味”も
ちなみに、広辞苑(第七版)には「トサケン」の項目はなく、「トサイヌ」のみが記載されている。 「とさいぬ【土佐犬】…(1)高知県にいた在来種にマスチフなどを交配して作出、闘犬用 (2)土佐の地犬。純粋の日本犬で天然記念物。四国犬」と記載されている(一部抜粋)。 県や文化庁のHPに記載されている「土佐犬」は(2)を指すが、その他にも、(1)の意味(闘犬用の犬)もあるとしている。
「土佐闘犬は土佐犬ではない」闘犬業界の主張
しかし、闘犬業界は(1)の「闘犬用の犬」は「土佐闘犬」と呼び、「土佐犬」ではないと主張している。 かつて、高知市の桂浜には国内唯一の闘犬場があり、観光名所として賑わった。経営悪化で2016年に倒産したが、一部の闘犬愛好者は場所を変え、闘犬を続けている。日本でも数少ない闘犬士の岩松孝彰さん(60)は「闘犬場に立つ犬は決して土佐犬ではない。土佐闘犬だ」と話す。この認識は、県も日本犬保存会も同じだった。
見た目は別でもルーツは一緒…2つの“土佐犬”
土佐犬と土佐闘犬との違いをまとめる。土佐犬はかつて四国山地で猟犬として活躍した高知県原産の純粋な日本犬で、俊敏さと賢さを備えている。 一方、土佐闘犬は、県の天然記念物(1994年指定)。土佐犬とマスティフ(マスチフ)やグレート・デーンなど外国の大型犬を交配させ、闘技用に品種改良してきた歴史がある。つまり、土佐犬と土佐闘犬はルーツが一緒だが、純和種か否かという点で異なる。 土佐犬と土佐闘犬を混同しないように、日本犬保存会は土佐犬を「四国犬(シコクケン)」と呼び、普及に努めている。つまり、四国犬=土佐犬なのだ。 「土佐犬」「土佐闘犬」「四国犬」と3つの言葉があるが、どの犬にも、猟犬として暮らしを支えたり、娯楽として親しまれたりと、土佐の歴史が息づいている。
言葉の変化と向き合うアナウンサーたち
フジテレビ系列のアナウンス用語の指針では「土佐犬」の読み方として「トサイヌ」「トサケン」の両方を認めている。ただ、どちらが「土佐犬」に適切なのか─。全国のアナウンサーたちは、変化し続ける言葉と向き合い、その時代を生きる人々により伝わる読み方を模索し続けている。 取材:玉井新平(高知さんさんテレビアナウンサー)
高知さんさんテレビ