<紫龍―愛工大名電・センバツまでの歩み>/上 「ゼロからスタート」 練習試合の完敗、成長の糧に /愛知
「試合の勝ち方が分からず、チームのビジョンも見えない」。センバツに出場する愛工大名電(愛知)の主将、山口泰知(2年)は新チームが発足した直後の昨年8月上旬、頭を抱えていた。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 旧チームは強豪ぞろいの夏の県大会を3連覇し、甲子園では優勝候補の一角にも挙げられた。 徳島商との1回戦で山口を含む2年生6人がベンチ入りし、大泉塁翔(るいが)は八回からマウンドに上がり無失点、石見颯真は3番を担って大会屈指の好投手から安打を放った。宍戸琥一(こいち)や板倉鉄将も大歓声の中でプレーした。はたから見れば、戦力は整っているはずだった。 しかし、甲子園で敗れた2日後の8月9日から始めた練習試合で「力のなさ」を思い知らされる。福井県の福井工大福井、敦賀気比に完敗し、翌週対戦した滋賀県の近江にも歯が立たなかった。相手は各県を代表する実力校とはいえ、守備が安定せず、打線もつながらなかった。 「戦いにならない。ゼロからのスタートだ」。歯車がかみ合わないチームに、倉野光生監督は腹をくくった。 迎えた県大会のシード校を決める名古屋地区2次予選。何とか2連勝し、8月23日に行われた第1シード決定戦の相手は東邦だった。センバツでの優勝回数は全国最多の5回を誇り、愛工大名電、中京大中京、享栄とともに愛知の「私学4強」と称される名門だ。部員たちは日ごろから「東邦に勝たないと甲子園には届かない」と肝に銘じていたはずだったが、4―5で惜敗。残塁の山を築いて勝てる試合を落とし、チームの危機感がピークに達した。 その日の夜。「このままではいけない」と山口や石見、板倉、石島健(2年)の呼び掛けで、春日井市にある野球部合宿所の食堂に31人の部員全員が集まった。敗因を出し合い、共有するためだ。 「守りの連係が悪く、ミスが出た」「相手走者に対するけん制が甘かった」「勝負どころで弱かった」――。遠慮なく指摘し合うと、主に自分たちから崩れ、試合の流れをつかめなかったことが分かった。一方、大泉や伊東尚輝(2年)、古谷龍斗(同)を軸とした投手陣は計算できるようになってきた。 「まず内外野の守りを固めよう」。全員でチームの方向性を定め、胸に刻んだ。県大会の開幕まで残り約2週間。内野陣は自らの発案で午前5時前に合宿所を出て、早朝ノックに励むようになった。 ◇ 倉野監督は今年のえとにちなみ、「センバツで勝ち残る力強い龍になれ」と選手を鼓舞する。紫色の文字で「Meiden」とあしらわれた伝統のユニホームに身を包んだナイン。龍を目指し、センバツ出場を決めるまでの戦いを振り返る。【黒詰拓也】(題字は倉野光生監督)